製品管理
2019/11/26
HACCPの制度化で、 中小企業が対応すべき衛生管理のポイントとは?
HACCPの制度化に向けて、いろいろ調べてはいるものの、具体的に何をすればよいのかイメージがつかない企業はとても多いのではないでしょうか。そこで、今回は衛生管理のプロフェッショナル高木敏明が中小企業でもできる、具体的なHACCP対策についてお話します。
中小企業からのよくある質問
HACCPの制度化がはじまると聞いていますが、いつから何をすればよいのか、よくわかりません。特に私たちは中小企業なので、どこまでできるか不安です。
この質問に回答する専門家
中小企業の食品衛生管理エキスパート
中小企業診断士
高木 敏明
大手食品会社で魚肉練り製品・生めん類・餃子・焼売・業務用冷凍食品などの商品開発、食品衛生管理、HACCPシステムの構築及び運用などに従事。
目次
最低限押さえておきたい「HACCP制度化の全貌」
HACCP制度化とは何か
HACCPとは先進国を中心に導入される食品衛生管理手法のことです。日本国内でもその導入が図られています。この動きに伴い、国内のすべての食品関係の事業者はHACCPにのっとった食品管理が求められます。その場で調理して料理を提供する飲食店や、製造所と小売店が一体となっている豆腐屋さんやお菓子屋さん、惣菜店や、食品の保管や輸送を行う事業者までも含まれます。
制度化と認証について
制度化について調べると、「HACCPの認証」という言葉が出てきますが、認証の取得と、今回の制度化は別です(制度化では認証の取得までは求めていません)。認証を取得するには、認証会社の審査に合格する必要があり相当の費用が掛かります。取引先に要求されたり、認証の取得で自社の信用をより向上させたりする時に考えればよいと思います。
制度化に対応するためにどれくらいの費用がかかるのか
制度化に対応するためかかる時間や費用は、事業規模(小規模、中規模以上)や業種によって、対応すべき内容と費用が異なってきます。あくまでも目安としてご覧ください。
<小規模事業者等>
厚生労働省の「手引書」に記載のある手順5つを実施すればよいので、ある程度HACCPの知識があれば1か月程度で準備が可能です。
専門家に支援を依頼する場合は、10~15万円程度がががります。(2~3回の支援)
<中規模以上の事業者>
HACCPの7原則を確実に実施しなければならないので、準備には少なくとも半年くらいは必要になります。専門家に支援を依頼する場合は、50万円程度がかかります。(10回程度の支援)
<認証の取得を目指す場合>
認証の取得は、食品衛生法の改正による制度化では求められていません。
専門家に支援を依頼する場合は、100万~130万程度がかかります。(認証コンサルティング、審査/更新審査対応)
いつまでに対応する必要があるのか
令和2年(2020年)5月までには対応が必要とうたわれています。しかし、経過措置として1年間の猶予期間が認められていますので、実際の最終期限は令和3年(2021年)5月までです。
事業規模に応じたHACCP制度化の対応方法
制度化の内容は、事業規模や業種の違いにより2つに区分されています。小規模事業者等を対象にした「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」と、中規模以上の事業者を対象とした「HACCPに基づく衛生管理」があります。
【小規模な事業者等の場合(50人未満の事業者)】
小規模事業者等に求められるのは、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」です。厚生労働省が発行する手引書に従って、以下5つの手順を実施することが求められます。考えを理解することと、それを既存の手順に活かすことが主となります。
<5つの手順>
①「手引書」を読んで「危害要因」とその対応、「衛生管理のポイント」を理解する。
②自分の工場に即した「衛生管理計画」を作成する。
③重要な作業は作業手順を文書にする。
④重要な工程や作業の実施記録をつける。
⑤実施記録を基にして、振り返りと見直しを行う。
【中規模以上の事業者の場合(上記の小規模な事業者等以外の事業者)】
中規模以上の事業者に求められるのは、「HACCPに基づく衛生管理」です。厚生労働省が設定している7原則に沿った衛生管理を設定する必要があります。また、その管理方法の文書化が求められます。
<HACCPの7原則>
原則1:危害要因の分析(すべての原材料、すべての工程で考えられる生物的・化学的・物理的危害を全部リストアップし、そのリスクを評価します。)
原則2:重要管理点の設定(最終的にその工程でしか危害を除去またはリスクを低減できない工程を選定します。)
原則3:管理基準の設定(重要管理点で管理する基準を設定します。温度・時間・pHなど)
原則4:モニタリング方法の設定(管理基準を監視:モニタリングする方法を設定します。)
原則5:是正処置の設定(基準を逸脱した場合の処置をあらかじめ設定しておきます。)
原則6:検証手順の設定(HACCPシステムが有効に機能しているかを検証するための方法を設定します。)
原則7:文書化及び記録保持(文書や記録の保持方法を設定します。)
小規模事業者等が具体的にやること
小規模な事業者が実施すべき「5つの手順」を以下に具体的に説明します。手順1.「手引書」を読んで「危害要因」とその対応、「衛生管理のポイント」を理解する。
厚生労働省のHPから自社に合致する「手引書」をダウンロードして読み込みます。特に、食中毒菌・金属異物・アレルゲンなどの「危害要因」とその対応と「衛生管理のポイント」はしっかり理解してください。
厚生労働省HP:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書
手順2.自分の工場に即した「衛生管理計画」を作成する。
従業員・工場施設・機械器具・使用する水・汚染防止・原材料の保管・アレルゲン管理など、手引書に記載された観点に沿い、自社工場がどのような衛生管理を行っていくのか、「衛生管理計画」を作成します。計画とは、具体的な手順と時期、担当者を明確に記載した書面です。ネットで計画書のひな型を見つけると作るもののイメージがわきやすいです。
手順3.重要な作業は作業手順を文書にする。
計画書に盛り込んだ内容のうち、自社にとって重要な工程は、作業の手順(何をどのようにするか具体的に明示)を文書にします。例えば、従業員の健康管理・トイレの清掃・ラインの清掃・加熱や冷却などが食中毒菌を制御する重要な工程にあたります。
手順4.重要な工程や作業の実施記録をつける。
計画書、作業手順がきまったあとは、実際の作業を行います。その際に、後で振り返り必要な改善ができるように実施した内容を記録します。
手順5.実施記録を基にして、振り返りと見直しを行う。
定期的に実施記録を基に振り返りと見直しを行います。衛生管理計画の通りに実施できたか?不良品や苦情はなったか?それらは今の衛生管理計画で防止できるか?などの観点で振り返りを行います。振り返りの結果、見直す必要があれば衛生管理計画を改善します。
計画書を作るためのコツ「自社の衛生管理の流れを洗い出す」
手引書の管理項目(ex.工場の建物の維持管理、トイレの管理、原材料の保管など)に沿って、事前に自社の管理実態を書き出します。そのうえで、実施していないこと、実施しているが不足していることを手引書と比べて洗い出したうえ、把握します。計画書に織り込んでいくと効率的です。
中規模以上の事業主が具体的にやるべきこと
中規模以上の事業者に求められる「HACCPの7原則」。その7原則を徹底するために、以下12の手順に沿って衛生管理を導入、実施、振り返りを行うことが必要です。具体的な12の手順とは?
手順の詳しい解説については、厚生労働省のHPに記載がありますので、そちらをご覧いただくと詳しく理解できます。取り扱う食品の種類や製造方法別に手引書が掲載されています。
厚生労働省HP:HACCP導入のための手引書
手順1:HACCPチームの編成
手順2:製品特徴の確認
手順3:製品の使用方法の確認
手順4:製造工程図一覧の作成
手順5:製造工程図一覧の現場での確認
手順6:危害要因の分析
手順7:重要管理点の設定
手順8:管理基準の設定
手順9:モニタリング方法の設定
手順10:是正処置の設定
手順11:検証手順の設定
手順12:文書化及び記録保持
専門家からのワンポイントアドバイス
HACCPの衛生管理を実施するためには、新たな設備や製造現場の改修が必要と考えられがちですが、現在、問題なく営業されている事業者であればその必要はありません。知恵を絞り、一般衛生や工程の管理方法を工夫することで食品の安全性を向上することができます。この知恵や工夫のアドバイスを専門家に求めることで、大幅な時間の削減効果があります。ぜひ、うまく専門家を活用してください。
専門家紹介
中小企業の食品衛生管理エキスパート
中小企業診断士
高木 敏明
専門分野
□ 食品開発・食品加工:保存性とおいしさを両立させる加工方法
□ 食品衛生:食品従事者が、微生物の性質をよく知ることで微生物がまるで目に見えるようにすること
□ HACCPシステムの構築:お金をかけずに仕組みを工夫する
□ 食品表示:経営者が知っておくべき食品表示のポイントを指導
自己紹介
大学では、食品微生物学を専攻。イカの塩辛や飯寿司などの水産発酵食品の機序にも詳しい。大手食品会社で、魚肉練り製品・生めん類・餃子・焼売・業務用冷凍食品・高温殺菌食品などの商品開発、食品衛生管理、HACCPシステムの構築及び運用、環境マネジメントシステムの構築及び運用に従事。現在は総菜工場のHACCP指導や食品加工、食品衛生や食品表示のセミナーの講師などを担当
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