経営企画・戦略立案

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2020/1/31

必要性に迫られる、中小企業の事業承継!成功させるために押さえるポイント

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中小企業経営者の多くが60~70代となり、高齢化が進んでいます。事業を健全な状態で継続運営していくには、後継者への円滑な事業承継が重大な課題となっています。しかし現実には、後継者問題を含め様々な課題に取り組めていない中小企業経営者が多くいます。今回は、廃業を避け、事業承継を成功させるポイントについて、中小企業診断士の西川邦広氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

世代交代のために、いまの会社を事業承継しなければならないと思っています。スムーズに事業承継を成功させるためのポイントを教えてください。

この質問に回答する専門家

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中小企業診断士

西川 邦広

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業診断士。

目次

見出しアイコン円滑な事業承継が成長に繋がる

そもそも企業は継続が前提です。従業員、取引先他多くの企業関係者がいますので、経営者は自己都合で事業を停止、あるいは廃業できません。 中小企業にとって、事業承継は重要な経営課題です。

事業承継とは

事業承継は会社の「事業」を承継する手続きです。「事業」は“経営”と“資産”に大別されます(右表参照)。承継の対象は様々で、一括りにはできないことにお気付きでしょうか。

承継検討開始のタイミング
とりわけ中小企業では、事業承継は世代交代の意味合いもあり、健康上の理由などで引退を検討する時期と重なります。 だからこそ、事業承継の準備開始を引退時期ぎりぎりまで待っていては遅いのです。

事業承継の効果
経営者の高齢化は、企業成長への投資意欲の低下など、新たな挑戦によるリスク回避に繋がる傾向にあります。しかし、経営者の交代を経た中小企業の経常利益率は、交代のなかった企業を2.2%近く上回るという結果があります(中小企業庁 平成28年11月28日 資料「事業承継に関する現状と課題について」参照)。
事業承継は、継続だけでなく成長という効果ももたらします。

成長の時機を逃していませんか
経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67.7歳、小規模企業では70.5歳です(中小企業庁 平成28年11月28日 資料「事業承継に関する現状と課題について」参照)。
一方で、事業承継を行った企業のうち、中規模企業の約7割、小規模企業の約6割が、後継者の育成に5年以上を要しています(中小企業庁「中小企業白書2014年版」第3部第3章第1節 参照)。
事業承継は成長の契機である反面、失敗すれば継続自体も危うい可能性があります。中小企業経営者が責任を持って向き合うべき課題です。

見出しアイコン事業承継へどう向き合えばいいのか

事業承継を意識しながらも、なかなか準備に取り掛かれない中小企業経営者の方が多くいます。日々の経営に全力で向き合っていて、事業承継の検討に十分な時間を充てられないことが大きな理由です。
だからこそ、はやくからひとつずつ取り組むことが大事です。

先輩経営者の実態
80代の経営者でも、その半数以下しか承継の準備を終えられていないのが実態です。またその準備も、後継者を決定しただけに止まる人が多いのです。
後継者決定は事業承継の一里塚です。後継者への事業承継手続き終了、そして後継者による経営の安定化までには多くの時間を要します。ご自身の会社を今の姿にするまで、どのくらいの年数と努力をお掛けになりましたか。

頭を悩ませていること
事業承継に向き合ううえでよくある悩みとして、以下が挙げられます。

1、いつから始めればいいのかわからない…。
2、何から手を付ければいいのかわからない…。
3、事業を引き継いでくれる人がいるのだろうか…。
4、後継者候補は承知してくれるだろうか…。
5、事業環境が厳しくて苦労させてしまうのではないか…。
6、引退したあと自分はどういう立ち位置になるのか…。

今まで自らすべてを仕切ってきたのですから、いまさら何を引き継ぐのか戸惑いますよね。「これすべてだよ」と仰りたい気持ちも分かります。 また、「誰に引き継げばいい? 当然のように子供へ承継するべきなのか? でも子供に同じ苦労はさせたくない」というお考えもあるでしょう。 一方、引き受ける後継者にも心づもりを含めて準備が必要です。

見出しアイコン計画的な事業承継が成功のコツ

円滑な事業承継には5年以上必要ですので、年齢というより、むしろ事業承継を意識した時点で計画的に準備を進めていきましょう。

事業承継のポイント
中小企業経営者の実例から見た、事業承継を成功へ導く上で大切なポイントを以下に挙げました。これをもとに、個別に行動計画を作りましょう(「事業承継の行動計画のポイント」にて後述)。



後継者との共有
後継者とご自身とでは、性格や経営能力はもちろんのこと、事業への思いも異なります。それは、後継者がご子息であっても同様です。後継者と事業承継をどのように進めていくのかを相互理解することも、事業承継の成否に大きく関わります。

見出しアイコン円滑な事業承継に向けて

円滑な事業承継のためには早めに準備を進めるべきだということはご理解いただけたかと思います。ただ何より大事なのは、その準備を含めた計画を着実に実行することなのです。
事業承継計画や個別の行動計画の作成、そしてそれを着実・確実に実行するために、準備段階から、経験ある中小企業診断士や支援機関等の協力を得て取り組むことが肝となります。

事業承継へのステップ
計画から実施へ向けての大きな流れは以下の通りです。

ステップ1:現況を把握し、見える化する
承継する事業(「経営」と「資産」)の現況や成長性、課題等を把握しましょう。網羅的に漏れのないような棚卸が必要です。のちに後継者と共有します。

ステップ2:課題抽出と改善に取り組む
事業基盤が不安定だと後継者は承継に二の足を踏みます。具体的な課題改善策を講じましょう。課題を現経営者が放置しないことが円滑な承継に繋がります。

ステップ3:事業承継計画を作成する
後継者を決めましょう。
候補者は大別して①子息を含む親族、②従業員、③社外(M&A等)です。
ご子息等あるいは従業員の場合は、速やかに事業承継計画を共に作り、実行に移します。
内部にいない場合は、M&Aも検討されるかと思います。その場合、ステップ2の段階から前倒しで候補者選定作業を行っていることが必要です。中小企業のM&Aは、経営者の個性や特徴が色濃く出るため、双方合意への道のりは平坦ではありません。

ステップ4:事業承継計画を実行する
行動計画を通じて事業承継を実行に移します。後継者との位置関係を、前もってご自身で定めておきましょう。

事業承継の行動計画のポイント
具体的に事業承継計画をイメージしてみましょう。
まずは事業計画ですが、事業承継を念頭に現況を整理した上で、事業の将来を見通します。方向性の決定、売上高・利益等の数値と体制等の定性目標の設定をします。

1.経営資源:従業員(人数、年齢層)、資産/負債、損益、ブランド、知的資産ほか
  2.事業環境:業界/市場(行政/経済/社会/技術など)、競合他リスク要因ほか

上記と並行して、下記の承継計画を立てます(前項「事業承継のポイント」参照)。

1.株式/事業用資産:株主、不動産(保有/賃借)、借入、担保/経営者保証ほか
2.後継者:選定、経営者教育、経営理念、取引先他関係者の協力ほか
3.相続財産:株式評価、相続人、相続税ほか
4.後継者への引継ぎ時期

引継ぎ時期を示した時間軸上に実施項目を落とし込み、事業承継計画を作りましょう。下記様式を利用することも一考です。

中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」ページ

承継への支援施策の活用
主な支援策の概略だけ、以下に示します。

1、贈与税/相続税の納税猶予(親族外後継者を含む)する事業承継税制
2、M&Aによる承継時の登録免許税/不動産取得税の軽減措置
3、複数の相続人間での相続紛争を回避し経営権を後継者へ集中
4、事業承継時の経営者保証解除に向けた対策(経営者保証ガイドラインの活用)など

いずれも一定の要件があり、また承継計画提出などの手続きが必要ですので、専門家の協力を仰ぎましょう。

見出しアイコン事業承継の準備はお早めに

現経営者が健康なうちに事業承継の準備を始めましょう。また、後継者が即座に経営者の職責を果たせる環境を作ることも大事です。
現況を正確に把握し、承継後を見据えて事業承継計画を実行できるかどうかが、成功のカギを握ります。そのことを肝に銘じて、事業承継に取り組みましょう。

専門家紹介


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中小企業診断士

西川 邦広

専門分野

□ 事業計画(新規事業、創業、事業承継等)、資金調達、金融再生

□ 経営改善(課題発掘、行動計画作成とモニタリング)、組織活性化

□ M&A(買収、売却、廃業、事業連携等)

□ リスク管理、事業継続(BCP他)、内部管理体制

□ IPO(上場等)準備

自己紹介

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後(原価管理、契約管理、労務、不動産開発等)、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業支援では建設/住宅設備/観光バス/外食/小売・卸/介護等企業の経営支援実績。中小企業診断士、宅地建物取引士、ロジスティクス管理士(物流)、CFP。資金調達や介護事業に関する執筆あり。東京都在住。

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