経営企画・戦略立案

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2020/2/20

中小企業が資金調達を成功させるために必要なこと

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中小企業経営者をいつも悩ませる課題の一つが資金調達ではないでしょうか。新規事業、製品開発など、新たな取り組み時の調達はより深刻な課題です。
資金調達を頭痛の種と捉えず、成長のための資金計画として正面から取り組むために、今回は調達手段について中小企業診断士の西川邦広氏がお教えします。この記事で、複数の選択肢があることに気付いていただければ幸いです。

中小企業からのよくある質問

資金調達をしたいのですが、スムーズに実現するための進め方やコツを教えてください。

この質問に回答する専門家

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中小企業診断士

西川 邦広

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業診断士。

目次

見出しアイコン不動産担保がないと借入できない!?

人の体でいえば、資金調達は血液の供給に相当します。外部から輸血するのか、自ら血液を作り出すのかということが、大事な視点です。

金融機関からの借入に依存


中小企業による資金調達の多くは金融機関からの借入です。借入する中小企業は85.8%に達します。
この実情は中小企業が生死を金融機関に委ねているともいえます。つまり、経済環境や金融機関の姿勢次第で輸血が止まり得るという重大な問題なのです。
出典:中小企業白書2016年版第2部第5章第2節
(無借金企業を除く。複数回答のため、合計は100%にはならない。)

担保がないと借入れられない

中小企業が大きく依存している借入では、金融機関は通常、不動産等担保や保証を求めます。これは中小企業にとって大きな負担です。
十分な担保を持たない中小企業の経営者は、資金調達ができないことになります。しかし、その実状を嘆く前に、そもそもどうすれば金融機関から借入ができるのかを考えてみましょう。

見出しアイコン金融機関はなぜ融資をしてくれないのか?


金融機関が融資してくれない理由



借入を断られた経験を持つ経営者は少なくないと思います。その主な理由は、「収支状況が悪い」、「借入過多」です(右図参照)。
もっともな理由ではありませんか?
出典:中小企業白書2016年版第2部第5章第2節

金融機関は担保だけを見ているのか

金融機関が担保提供を求めるのは、弁済能力が不十分と判断しているからです。
つまり、借入に見合う体質にできばいいわけです。
事業収支を改善することは、事業継続の点からも当然です。改善により内部留保は増加し自己資金は増えます。その結果、借入余力は高まります。
「苦しいから資金がいる」との反論が聞こえそうです。ここは今回のポイントとなりますので、後ほど説明します。

見出しアイコン金融機関に自社をアピールする



政策面の後押しもあり、金融機関の融資姿勢は近年、徐々に変わりつつあります。同時に、まずは経営力を高め、外に発信することが求められています。

変わる金融機関の融資手法


現状、金融機関の多くは保証や不動産担保による融資手法を採っています。
しかし今後は「事業性を評価した担保・保証によらない融資」に重点を置きたいとしていることに注目してください。
出典:中小企業白書2016年版第2部第5章第2節

自社の事業を見える化しよう

事業性を評価されるということは、事業の取り組みによって資金を創るということです。経営者が自らの事業性(事業構造、現金創出の仕組み)を見える化することが重要です。事業性評価の活用が資金調達の多様化につながります。

見出しアイコン資金調達の目的を明確にしよう

資金調達を考える上で、その目的を整理しましょう。「何をいまさら?」と思うかもしれませんが、資金繰りという大きな視点に立つと、資金調達への道筋の景色が変わります。

貸借対照表を見ましょう

貸借対照表を用意して下さい。貸借対照表の貸方(右欄)は資金調達の手段を表しています。負債の代表が金融機関からの短長期の借入です。買掛債務(買掛金/支払手形)は取引先からの営業上の資金調達といえます。
純資産には株式による出資で弁済不要な資本金があります。ここで重視するのは利益剰余金です。事業運営で自ら創った利益の累積です。
 
資金調達と運用の関係

借方(左欄)は調達資金の運用結果(=目的)を表します。資金の調達と運用は表裏一体です。明確な資金目的も円滑な調達に繋がります。
運用では当然その期間も重要です。短期の運用は金利等借入条件を勘案し短期資金で賄うことが適切です。原材料購入目的なのか、長期に利用する設備の導入なのかにより調達手段を検討すべきです。

突然死を避ける

繰り返しになりますが、中小企業にとって資金(現金)の流れを把握することが重要です。
中小企業経営者は経営情報というと「売上高」「粗利益」を口にされます。損益計算書さえ把握されている方は少なく、貸借対照表に至ってはその存在さえ認識されていません。
資金の流れを把握し、円滑な資金調達に備えれば、突然の倒産や窮境状態に陥ることを避けられます。

見出しアイコン資金調達手段を増やそう

中小企業にとって資金調達の手段は、借入や、自己(親族等を含む)資金による増資や貸付を除けば実務的に限られます。
しかし、自社の事業価値を高めることで、より借入をしやすく、あるいは提供担保の変更や別の形で資金調達することも可能となります。 

調達手段のタイプ

中小企業にとって資金調達の主な選択肢は以下の通りです。

借入:担保融資(不動産、売掛債権/動産(ABL)、知的財産他)、保証、事業性評価など
増資:株式/優先株式など
債券:私募債/劣後債など
補助金・助成金
DES(債務の株式化)/DDS(劣後ローンなど別条件の債務に変更)…金融再生で多用

選択肢の内、今回は下記について概略を示します。今後中小企業にとって身近な存在になると思いますので、言葉だけでも覚えておいて下さい。
①事業性評価による借入
②ABLによる借入
③私募債による調達

事業性評価による借入

事業性評価は、金融機関が今後重視していく手法です。担保提供に代わり、企業の事業性を評価します。融資の可否を、従来のような決算数値など財務情報だけでなく、「非財務情報」も併せて判断します。赤字だから融資しないというのではなく、本来の経営力を重視します。
非財務情報の代表例は以下の通りです。

①会社概要
②組織図
③ビジネスモデル(商流/収益源泉/部門別採算)
④内部管理モデル(業務フロー/収益等管理状況)
⑤市場と競合環境(強み/価格競争力/差別化)
⑥財務・資金繰り・借入状況
⑦投資計画
⑧経営者
⑨経営課題と経営方針、事業計画

事業計画を作成している企業では既に用意している情報です。経営者は、事業を的確に把握し、金融機関に適宜説明する力が求められます。

ABL(Asset Based Lending)借入

ABLとは、動産・売掛金担保融資です。不動産の代わりに、本来の取引より発生する売掛債権、仕掛品/在庫、あるいは製品やサービスを生み出す機械や設備を担保にします。一部の金融機関は既に導入しています。
十分に不動産を持たない中小企業には有効です。また売上増加時は在庫や売掛債権の増加分に応じた運転資金の調達が可能で、事業の拡大縮小に合わせて必要な借入ができる利点があります。 徐々に認知度を高めてきていますが、普及への大きな課題は、売掛債権や動産の担保評価が金融機関にとって容易ではない点です。同時に中小企業がこれらの資産を適切に管理できていない点も挙げられます。
ABLは、先述の事業性評価と同様に、能動的に使える資金調達手法です。担保対象資産がどのように収益化に結びついているのか、積極的に自社の資産価値をアピールしましょう。

私募債

私募債では、社債を通じて投資家から直接資金調達できます。不特定多数の投資家を対象とする公募債と異なり、私募債は銀行向け、あるいは50人未満の投資家向けに発行します。 借入金とは異なり、元本を満期日に一括弁済しますので、比較的長期の安定的な資金として活用できます。
経営者にとっては、償還日まで資金流出を繰延べでき、資金繰りの余裕から経営に集中できるという利点もあります。
また、貸借対照表上は「社債」計上となり、借入余力の点でも有利です。
最近は、従業員、取引先などに向けた私募債も少なくありません。信頼ある会社にとっては有用な手法といえ、柔軟な設計が可能です。

見出しアイコン有利な資金調達をするために

事業計画に合わせて必要な資金をどういう形で取り込んでいくかという姿勢が効果的な、また効率的な経営に繋がります。これを機会に視野を広げて有利な資金調達に取り組んで下さい。

専門家紹介


西川 邦広さん画像

中小企業診断士

西川 邦広

専門分野

□ 事業計画(新規事業、創業、事業承継等)、資金調達、金融再生

□ 経営改善(課題発掘、行動計画作成とモニタリング)、組織活性化

□ M&A(買収、売却、廃業、事業連携等)

□ リスク管理、事業継続(BCP他)、内部管理体制

□ IPO(上場等)準備

自己紹介

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後(原価管理、契約管理、労務、不動産開発等)、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業支援では建設/住宅設備/観光バス/外食/小売・卸/介護等企業の経営支援実績。中小企業診断士、宅地建物取引士、ロジスティクス管理士(物流)、CFP。資金調達や介護事業に関する執筆あり。東京都在住。

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