経営企画・戦略立案

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2020/1/23

中小企業による事業拡大のためのM&A。買い手が成功するためのコツとは

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今やM&Aは大企業だけのものではなく、中小企業においても重要な成長戦略の一つとなってきました。しかしM&Aの現場では、失敗例が7割近くあるといわれています。なぜ期待した効果が得られないのか。
今回は、買い手から見た中小企業のM&Aの成功のコツについて、中小企業診断士の西川邦広氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

既存の事業だけでは成長に限界があるため、M&Aによって新規事業を展開したいと思っています。M&Aを実施する上で考えるべきポイントや成功するコツがあれば教えてください。

この質問に回答する専門家

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中小企業診断士

西川 邦広

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業診断士。

目次

見出しアイコンコツを掴んで、M&Aに取り組んでみましょう

中小企業のM&Aにおいて、買い手にとっての成功のコツは、

①狙う相乗効果を明確にする
②PMIの姿を早期に描く
③交渉過程で曖昧さを残さない

ことに集約されます。
成長インフラを即座に獲得できるM&Aは、中小企業にとっても特別な手段ではありません。根深い人材不足問題への対応としても有効な戦術です。昨今の事業承継の動きは好機ともいえます。
コツを掴んで、M&Aに積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

見出しアイコンM&Aは成長戦略の有効な手段

中小企業によるM&Aは2012年の157件から2017年には526件と3倍超(成約ベース)となっています(中小企業白書2018年第2部第6章第2節 参照)。 
M&Aは戦略別に多様な形態があります。多くの人の耳目を集めるのは企業買収(図の黄色網掛部分:筆者作成)で、中小企業では約9割が株式譲渡となっているようです。今回は企業買収を前提に進めますが、その大半はいずれの形態にも共通します。

M&Aが行われる背景中小企業がM&Aを行う背景には何があるのでしょうか。
売り手の背景としては、最近では経営者の高齢化、高齢者不足による事業承継、あるいは廃業が挙げられます。また、財務状況の悪化や事業環境変化に自力で対応できないことなども背景となります。 一方、買い手にとっては、新規事業、事業多角化、市場シェア拡大などに要する膨大な時間と費用が掛からないことが大きなメリットです。ノウハウ、取引先、技術、人材などの経営資源を即刻活用できます。

M&Aの成功率は6~7割
買い手にとってM&Aは魅力的なのですが、その成功率は6~7割程度と現場ではいわれます。では、失敗は何に起因するのでしょうか。買い手が陥る失敗の原因を、次に見てみましょう。

見出しアイコンM&Aが失敗に至る要因

買い手にとってM&Aの失敗とは、当初想定した効果が得られないことです。M&Aで売り手との相乗効果を狙うため、裏返せば期待効果が明確でないと失敗に終わりかねないということになります。
売り手を理解しなければ、期待効果は空想に止まります。

失敗するM&Aの特徴失敗するM&Aの特徴をご説明します。以下のようなM&Aでは成功は覚束ないでしょう。
     
  1. 明確な目的 (期待する相乗効果))もなく、“出物があったので”買収してしまった
  2. 買収後の相乗効果をイメージだけで捉えた(相乗効果≠イメージ)
  3. 提出された資料の上辺だけを見て、内容を精査しなかった
  4. 性急に交渉を進め、両者間の考えの違いを詰めないままに放置、あるいは説明を鵜呑みにしてしまった
  5. 従業員、取引先、金融機関の理解を求めなかった
  6. 契約条件を詰めることなく、買収後に変更しようと安易に合意してしまった


買い手の意気込みだけでは失敗する
M&A市場では、売却候補の情報を入手することは容易ではありません。訪れた機会に前のめりになることは致し方ないですが、客観的な目を失ってはいけません。 また、中小企業のM&Aでは売り手経営者の“想い”への理解に努めないと、失敗に終わる場合が少なくありません。

見出しアイコンM&A成功へのチェックポイント


M&A実行フロー(右記)に沿って、成功へのステップの重要な点を以下に説明します。



成功へのステップ

1.選定時
M&Aによる相乗効果を求めるうえで、自社の事業戦略/計画を明確にしておきましょう。 M&A案件は、仲介者やアドバイザーからの紹介もありますが、想定外の時機に候補が出現することが多くあります。適時に対応するためにも、買収候補先の条件等を予め描いておくことが望ましいでしょう。
売り手が見つかっても、提示条件や交渉日程などを安易に受容れず、自らに最適な体制と日程感をもってあたりましょう。

2.交渉時
売り手の事業やその体制の実態を把握し、描いた相乗効果を期待できるのかを事業精査で確認していきましょう。
決算書を含め、内部資料作成を適切にできていない中小企業が多くあります。財務面では簿外債務や回収不能資産などで、法務面では労働訴訟などです。事業の安定性を損なう、隠れたリスクを洗い出す必要があります。

情報開示は売り手には大きな負担ですが、妥協は後悔に繋がります。リスクを認識した上でそれを受容れるのは経営判断です。これは買収価額で調整します。
また、売り手の従業員の退職を防ぐことも必要です。ごく一部の従業員が事業を担っている場合が少なくありません。買い手のM&A戦略の不透明さは従業員の不信を生み、流出へとつながります。

3.統合時
M&Aの実務上の成否はこの段階で決まります。
M&Aの特徴は異なる企業風土や文化を統合することであり、摩擦が生じることが必至です。 そこで統合後の運営(PMI)が極めて重要で、事業精査の段階から短中期の経営方針/事業計画を検討します。
このPMIの欠如が日本のM&Aの失敗の真因といっても過言ではありません。

見出しアイコンM&AはPMI重視



PMIがM&Aの成否のカギ
M&Aを実施した中小企業は、満足度が期待を下回った理由として44.7%が「相乗効果が出なかった」ことを挙げています(中小企業白書2018年第2部第6章第3節 参照)。 中小企業のM&Aでは、とりわけ経営者の個性が色濃く反映された組織文化や風土がぶつかります。PMI(統合後の運営)を失敗すると、長期に亘る努力がすべて水泡に帰します。契約締結は大きな節目ですが、M&Aの出発点に過ぎません。
相乗効果を実現するためなら、買収候補先選定、経営者間の合意形成、事業精査の段階からPMIに取り組んでも、早過ぎるということはありません。

PMI検討事項
 主な検討項目は以下の通りです。
1.経営・組織:経営方針/事業計画、意思決定の仕組み、部門の統合、役職員の再配置、情報共有の仕組みなど
2.制度:人事/評価/報酬他処遇、労務など
3.事業&仕入先:事業の集約・統合や廃止、営業戦略、仕入先の集約など 業務フロー(IT含む):会計ほか業務フローの変更、ITシステムの見直しなど

PMI実施
互いの社内事情や利害への固執はPMI作業の進捗を妨げます。経営トップはリーダーシップを発揮しなくてはいけません。 PMI計画は契約後速やかに実行に移します。そのためには、事業精査を通じて相乗効果の検証をし、契約締結までに行動計画レベルにできる限り落とし込んでおきましょう。進捗管理のためには時間軸と共に適切なKPI(目標管理指標:目標数量など)を設けることが望ましいです。

思わぬところから破談に
中小企業のM&Aが交渉過程で破談となる理由に、

①売り手を軽んじる買い手の言動
②情報の漏洩
③経営者間の意思疎通の不徹底

などがあります。 買い手主導となるので対等な関係というのは実務的に難しいですが、尊重する姿勢は必要です。但し、“相手が嫌がることに触れない”ということではありません。寧ろ不明点を勝手な思い込みで理解してはいけないのです。あとで、“そういうつもりではなかった”というような事態は避けるべきです。
また、交渉中の情報漏洩は様々な憶測や不信、誤解などを生みます。情報共有者は限定的にしましょう。

専門家紹介


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中小企業診断士

西川 邦広

専門分野

□ 事業計画(新規事業、創業、事業承継等)、資金調達、金融再生

□ 経営改善(課題発掘、行動計画作成とモニタリング)、組織活性化

□ M&A(買収、売却、廃業、事業連携等)

□ リスク管理、事業継続(BCP他)、内部管理体制

□ IPO(上場等)準備

自己紹介

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後(原価管理、契約管理、労務、不動産開発等)、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業支援では建設/住宅設備/観光バス/外食/小売・卸/介護等企業の経営支援実績。中小企業診断士、宅地建物取引士、ロジスティクス管理士(物流)、CFP。資金調達や介護事業に関する執筆あり。東京都在住。

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