人事・労務管理

人材育成

2020/5/10

人材の多様化によりますます難しくなる人材育成。中小企業が取り組むべき人の育て方とは

[人材の多様化によりますます難しくなる人材育成。中小企業が取り組むべき人の育て方とは]トップ画像

多くの中小企業が、人事経営課題に「人材育成」を挙げます。代表的なものは、①退職者の技能伝承が上手くいっていない。②教える側の教えるスキル不足、教わる側の取組姿勢が噛み合っておらず上手くいっていない。③会社が「誰を」「どのように」育成するかプランをもっていない。等です。
今回は、中小企業がどのように「人材育成」に取り組むべきか、そしてどのように推進していくのかについて、株式会社アンカーJ代表取締役の千葉峰広が解説します。

中小企業からのよくある質問

雇用形態や価値観が多様化しているため、人材育成をどう進めていくべきかわからなくなっています。思うように教育が進まずに困っています。

この質問に回答する専門家

千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。

目次

見出しアイコン多くの中小企業で人材育成が課題になる理由

人材育成は他の人事領域(人事制度・人事管理・人材フロー等)と比べて、ある一定の難しさを持っていると自分は思っています。人材育成には時間がかかり、育成対象者の心に響かなければ進みません。コストパフォーマンスが求められる昨今、「育つ人を育て、育たない人は育てない」という施策も求められています。

時間がかかる人材育成
基本的に実施した人材育成プログラムが短期間で成果につながることはあまりありません。成果については年単位で考えるのが一般的です。
人材育成は、このように時間に加えて手間もかかるため、多くの会社は場当たり的な研修で後が続かなかったりするプログラムを実施してしまいます。結果として、人材育成への優先度を現場も人事も落としてしまっているのが実状ではないでしょうか。

意識改革をおこす人材育成は難しい
知識・スキル教育は学校教育の延長で、さほど手間が掛かりません。しかし、初任管理職研修やリーダーシップ研修は意識改革を起こし、これまでの行動を変えてもらうことを狙いとしています。よって育成対象者の心に響くような仕組みを作ることが困難です。
また、研修内容が会社の実態や人事制度に合致しているかの検証も重要です。

人材育成のコストパフォーマンス
人材育成に予算と時間を投入しても、その効果や実感を測定・表現することは難しいものがあります。
新入社員研修、初任管理職研修は対象者一律に実施しますが、意識改革をねらう研修は育つ人には実施するが、育たない人には実施しないという昨今の流れがこの答えのひとつになっているように思えます。

見出しアイコン中小企業が取組むべき「人材育成」

人事領域の「人材育成」はマネジメント教育、階層別教育体系、知識・スキル教育等広範囲にわたります。
時間や手間もかかり、効果測定も難しい上に、現場の参加協力も中々得られず、経営からは人が育っていないと苦言を呈される・・・。これが中小企業総務の人材育成の現状ではないでしょうか。
ここでは人材育成の取組課題も決まっていない会社への私なりの提案をしてみたいと思います。

中小企業人材育成の選択と集中
現場の職務遂行に必要な知識・スキル教育は、そのプラットホームを用意して現場にoff-JTとOJTを任せれば良いと思います。ここでのポイントは「できないことができるようになること」を意識して取組むことです。仕事そのものが教育となる場面も多々あることでしょう。
数ある人材育成のカテゴリーのなかで、重要なのは入社研修と、昇進時の新任管理職研修です。なぜならば、本人にとってほぼ白紙の領域へ語り掛けるものであり、意識改革を期待したい研修だからです。

入社研修への取組み
学卒者や中途入社者が貴社へ入社して、初めて受ける研修は貴社の人材育成の最初の場ともなります。
ここでは会社のルールや貴社の現場基礎知識に加えて、貴社の人事ポリシーや求める人物像を経営者か人事責任者に熱く語ってもらいたいと思います。ここでの価値観の共有やベクトルを合わせることが、入社間もなくて孤独な彼らの拠り所となり、辛いときは我慢し、彼らが進むべき道を示すこととなるでしょう。

管理職研修への取組み
自部署での業績を評価され管理職に昇進した人材は、担当業務の知識・スキルにおいて他の者への見本となっていることでしょう。但し、管理職になってからはこれまでの仕事のやり方で業績をさらに伸ばしていくのではなく、組織の力で業績を伸ばしていくという意識改革をしてもらわなければなりません。そのために管理職研修が必要です。そして管理職に求められる仕事こそが正に人材育成なのです。
中小企業の場合、管理職は選手兼監督のようなプレイングマネジャーの部分がまだまだ大きく、育成までは難しいと承知していますが、これがうまくいってないから会社全体で人が育っていないのです。

見出しアイコン人材育成を推進していくには

全社から注目度が低くなりがちな人材育成ですが、どうやって推進すればいいのでしょうか。いくつかヒントをご紹介します。

管理職の「人材育成」をどうやって評価するか
管理職の評価項目に「人材育成」が入っているのは一般的ですが、測定が難しい理由から本人の自己申告に頼っているケースが見受けられます。
この評価方法の視点を変えて、部下の年間昇格者がゼロであれば減点するとか、部下が新しい業務をできるように育成支援したら加点するといったようにすれば、管理職も真剣に取り組むようになるのではないでしょうか。

他の人事領域とのコラボレーション
単独で総括的な人材育成戦略をすると焦点がぼけてしまいますが、後継者人事(サクセションプラン)戦略とコラボレーションさせるとうまくいく場合があります。
例えば、各部門の部長の後継者を選抜し、人材アセスメントを実施して個別に不足している研修を受講させるプログラム等が考えられます。

見出しアイコン日々コツコツ行う人材育成

人材育成は、「やってもやらなくても変わらない」とか「経費節減で真っ先に削られる」といって、単独だと人事領域のなかでも地味なものにとらえられがちです。しかし、育成をやらずに放置しておくと企業にとって取り返しのつかないことになることも認識しておくことが重要です。 冒頭で述べたように、気が付くと来月退職する人の技能伝承がされていなかったり、人がほとんど育ってない現実があったりするのです。
これらの問題を短期間で一気に解決することは不可能です。地道ではありますが日々コツコツ人材育成をやっていくことが大切なのです。

専門家紹介


千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

専門分野

□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用

□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)

□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)

□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)

自己紹介

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住

・この専門家の他の記事をみる

・このカテゴリーの他の記事をみる

Engunのメールマガジンに登録する
Engunの冊子をダウンロードする

Introductionご案内

Engunの専門家に質問する