人事・労務管理

人事制度

2020/2/27

中小企業が人事制度を構築、見直す際に、考えるべきポイントとは

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中小企業が創業時から成長していく中で、人事制度の構築や見直しを必要とする時期が必ず訪れます。社長1人では増加した従業員に対処しきれない、中途入社による様々な価値観の衝突、予期せぬ中堅の退職の始まり等、事由は様々ですが、人事制度でこれらの危機をなんとか乗り切ろうと努力します。人事制度の構築や見直しには、専門的知識を多く必要とするため、コンサルタント等の外部機関を利用するのが一般的です。今回は、その際に失敗しないポイントについて株式会社アンカーJ代表取締役の千葉峰広氏が解説していきます。

中小企業からのよくある質問

従業員の給料について、いままで社長が主観で決めていたのですが、そろそろちゃんとした人事制度を整備したいと思っています。制度をつくる上でのポイントを教えてください。

この質問に回答する専門家

千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。

目次

見出しアイコン社長が人事制度の構築、見直しを考え始める時



中小企業経営者が人事制度の構築や見直しを考える時には、一定の法則や時期があるように思えます。その一つは、業績が順調に推移し従業員も30名を超えたあたりの時期です。そして、従業員が増加し100名に近くになってくると、現行制度の見直しのニーズがでてきます。もうひとつは、戦力となってきた中堅が突然退職してしまったり、任せられるマネジャーが恒久的に不足し始めた時です。

従業員30名の意味

社長1人か仲間数人で起業し、業績が順調に上りはじめ、それに応じて従業員を増員していく喜びは、何とも言えないものがあると思います。そして、従業員30人くらいの規模になる頃には、彼らは苦楽を共にしているため、強みや弱みを互いに把握しています。組織としては最高の強みを保有しているときかもしれません。
しかしながら、業績が更なる向上を続け従業員も50人を超えてくると、社長が主観で決めてきた人事の処遇は通用しなくなってきます。その理由は、従業員全員を把握することが不可能になり、厚いコミュニケーションもとれなくなってくるからです。

戦力となっていた中堅の退職やマネジャーの恒久的不足

信頼していた従業員から突然退職届を受け取ります。その理由を聞いてみると「社長は最近自分を見てくれていない」とのことで、慰留もできずに去られてしまうと、悔しさが残るでしょう。また、気が付くと任せられるマネジャーが恒久的に不足し、育成できない現場での止まらない退職という負のスパイラルから抜け出せずにいるのです。

人事制度構築時期

前述したように、社長は従業員が50人を超えるあたりで、全従業員を把握できなくなってきます。これまでのように信頼関係に基づいたコミュケーションや、社長の主観で行ってきた人事の処遇は、人事制度というツールに引き継がなければなりません。これは社長にとって寂しいことではありますが、やむを得ないことでもあります。

見出しアイコン人事制度とは、


巷では、人事制度、評価制度、等級制度などと言われていますが、これらをまとめると上図のようになります。等級制度、評価制度、報酬制度が三位一体となって密接につながり「人事制度」と呼ばれるのが一般的です。
よって現行制度を見直す時も、単発で一つの制度を改定するのではなく、残り二つの制度との整合性をとって改定していかなければなりません。

企業理念と人事基本方針



企業理念は、多くの中小企業でも定義されています。様々なステークホルダーに対して、当社はどのような価値を提供するのかを語る「ミッション」、描いた夢が実現する姿を語る「ビジョン」、そして物事を判断する際の基準を語る「バリュー」から構成されるのが一般的です。しかし、ここにはステークホルダーでもある従業員に対するメッセージが含まれていないのも一般的です。

人事基本方針(人事ポリシー)

企業理念は、ステークホルダーに対する貴社のメッセージです。顧客であったり、株主であったり、地域社会に貴社の存在意義や熱い思いを発信しています。
ステークホルダーに従業員が含まれるとしているものもありますが、企業理念で従業員に対する思いを発信している企業は少ないのです。
そこで、人事基本方針または人事ポリシーの策定が大切になります。ここには会社の、従業員に対する思いや人事政策の原理原則などが記されます。

人事制度構築の前に人事基本方針(人事ポリシー)の策定を

私の所にも「当社も評価制度を導入したい」「以前に導入した評価制度が全く使い物にならないので改定したい」といった依頼が来ます。
高確率で失敗するパターンとして、1から新しいものを作ろうという誤解から、インターネットやハウツー本の制度のフォーマットをもってきて運用してしまうという例が挙げられます。
社長が主観で決めていた人事の処遇を、多少の改善を加えて可視化することが大切です。しかし、このプロセスを踏んでいる会社は多くありません。
ですから、いきなり制度の各論に入るのではなく、社長の頭の中にあったものと不足しているものの追加・修正を行い、貴社の人事基本方針(人事ポリシー)を策定することが最初の第一歩なのです。

見出しアイコン求める人物像を経営と従業員で磨き上げていく


人事基本方針(人事ポリシー)には、貴社の従業員へ対する考え方、人事の拠り所を書きましょう。書式などは自由ですが、絶対記載事項は「求める人物像」です。採用シーンでは、応募者にとって会社を選ぶ重要なポイントにもなりますし、貴社の採用判断基準ともなります。そして、採用された従業員は、求める人物像で満たしていない要件が、入社後の育成要件となるのです。

貴社らしさと具体的イメージ人物像を大切に

例えば「高い実務能力を持ち、積極性と協調性も持っている人物」等といった求める人物像は、典型的なNG例となります。八方美人的で具体的イメージもできず、貴社らしさが出ていません。誰の心にも刺さらないことはお分かりかと思います。 私のクライアントの求める人物像の一例ですが、「現状に甘んじることなく学び続け、自ら進化しようとするひと」「自分で考えて行動し最大限の成果をチームで生み出せるひと」「当事者意識をもって物事に取り組めるひと」等は非常によくできていると思います。

社長は常に熱く語り、社内では頻繁に議論

求める人物像は、貴社の採用・人事戦略のコアとなる重要な定義です。したがって策定後に放置するのではなく、社長は常に熱く語り、総務が音頭をとって社内での議論を活性化するよう努めてください。そうすることで貴社の求める人物像が全員によって磨き上げられ、定着化し、様々なものに影響を与えていくと確信しています。

見出しアイコンブレない人事が会社を強くする

人事がブレると会社は従業員から信頼感を失います。
経営者と「求める人物像」について議論をしていたある時、経営者から「求める人物像の必要性は理解するが、我が社は稼いでくれる人材にはうるさく言わないことにしている」という発言がありました。それこそがブレる人事だ、と説得しましたが、理解してもらえなかった残念な想い出もあります。
人事制度の構築や改定の目的は、経営がブレない人事を行ない、従業員と良好な信頼関係を築き、会社を強くすることだと考えます。

専門家紹介


千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

専門分野

□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用

□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)

□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)

□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)

自己紹介

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住

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