人事・労務管理

人事制度

2020/5/10

中小企業を効率的に回す組織図の運用法と後継者育成に活用するコツ

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職業柄、中小企業の組織図を拝見する機会が多くあります。組織の機能等をしっかり吟味して組織図を作られている会社がある一方、今いる社員をただグルーピングしただけで、組織図と実態が異なっていたりすることも多々見受けられます。職制や人員配置についても同様な現象が見受けられ、係長や主任数が非常に多かったりしています。今回は組織図を活かして中小企業の効率化や後継者人事に役立てるにはどうするか、株式会社アンカーJ代表取締役千葉峰広が解説します。

中小企業からのよくある質問

弊社では組織図はありますが、仕事のフローが上手く回っていなかったり、仕事が属人化していて、効率化や後継者人事も上手くいっていません。 どのような解決方法があるでしょうか?

この質問に回答する専門家

千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。

目次

見出しアイコンそもそも組織図とは

そもそも組織図は何のためにあるのでしょうか?会社創業から事業が成長していく考察と着眼すべき点はどこにあるのでしょうか。

1人創業からの組織図
1人で工作機械を買って製造業を始めた場合を考えてみましょう。
社長1人だけですが、あえて組織図を作るならば、製造・営業・管理(総務経理)となり、社長が全て兼任となります。
注文も増加していき、営業と製造に係員を1名づつ採用し、戦略的に技術部長と係員も採用して5名になった場合の組織図は次のようになります。社長をトップに営業グループ、製造グループ、管理グループの長は社長が兼任し、営業と製造にそれぞれ1名の係員、技術グループ長と係員となります。
このように事業の成長に伴い、組織の分化と社長が別の者に権限委譲して組織図も変わっていきます。

事業の成長と組織図
事業の成長と共に組織を分化させ組織図を変更していくことは問題ありません。前述の製造業の例で言えば、この事業には営業という機能、製造という機能並びに管理という機能が必要だから3つの組織を作りますが、最初のうち人は社長しかいないから3組織を兼任させています。

事業が成長していき、新しい機能追加の必要性が出てきたときに組織も追加されていきます。製造、営業と同列に技術のグループができたり、製造グループが製造部となり直下に製造グループと品質管理グループができたりすることが考えられます。

組織図とスパン・オブ・コントロール
組織図における着眼点のひとつにスパン・オブ・コントロール(直接管理する部下の人数)があります。
財務諸表のB/SやP/Lから異常指標がわかるように、組織図において1管理職の下に20名の係員がいる組織図をみると、ここは人事管理機能不全かうまくいっていないと思ってしまいます。
一般的に1人の管理職の管理可能(スパン・オブ・コントロール)は10人程度がMAXといわれています。

見出しアイコンお勧めできない組織図

中小企業において、何となく作成されている組織図には様々な問題が隠れており、それが何故問題なのかを解説していきたいと思います。

ほぼ兼任や処遇の為の組織図
中小企業は得てして少数精鋭主義をとっているところが多く、30人以上の規模になっても上位管理職がほとんど兼任になっています。これはお勧めできない組織図です。
もうひとつのお勧めできない組織図は、機能ではなく人事処遇によって組織図を作ってしまうことです。部長、課長への昇進者が出る度毎に組織を作ってしまい、各組織の機能やレポートラインが曖昧になっているケースです。

人に仕事が付いている組織図
欧米は職務に「人」がついているので、組織図や職務記述書は明確でわかりやすくなっています。一方日本の、とりわけ中小企業は、「人」に職務がついているのでそれを組織図で表そうとすると場合によっては理解に苦しむ組織図になることもあります。
あるクライアントの実例です。製造部の工場長でありながら営業部の係員も兼任していたので、理由を尋ねると「営業部の材料仕入れは工場長しかできないスキルなのでこのような組織図になっている」とのことでした。

見出しアイコン組織図を戦略的に使う

組織図に係る問題を解決するためにはどうしたら良いのでしょうか。いくつかのヒントを提案していきたいと思います。

定期人事異動を組織図で考える
中小企業は、大企業のような定期人事異動もなく運用されているのが一般的です。その理由の一つが、せっかく慣れて仕事をしているのだから敢えて人事異動させて本人や組織を混乱させる必要もないと考えることと、その余裕もないことが挙げられます。
定期人事異動が行われないデメリットとして、①仕事が属人化してしまう。②あの人の仕事は誰も出来ないから絶対異動させられない。③あの人が退職した時に多大なる損害となる、等の事象が起きてしまいます。
これらを勘案し、組織図を使って定期的に人事異動をしてみることをお勧めします。

後継者人事を組織図で考える
製造部長は同一人物が20年やっている。営業課長も同一人物が15年やっている。これらも中小企業ではよく聞く話です。その結果、部下のモチベーションは上がらず優秀な人材も流出してしまいます。対症療法的に役職定年制を導入したりしますが、後継者が育っていないのでうまくいきません。

これらを解決する方法としても、組織図を使って製造部長の後継者を決めてそのための訓練育成をします。その際、後継者が製造部長になったら元製造部長はどう処遇されるのかも設計しておくことをお勧めします。この設計がないと製造部長は保身から後継者を育てることはしないでしょう。

仕事の効率化を組織図で考える。
組織図を「人」に着眼して眺めるのではなく、機能に着眼して眺めることも重要です。 この仕事がうまくいかないとか、非効率的なのは、組織の機能のどこに問題があるのか?どの組織やレポートラインが阻害しているのかも検証しましょう。組織改革をすることで解決できることもあるということを心得ておきましょう。

見出しアイコン組織図を戦略的に使い定期人事異動への挑戦

これまで見てきたように中小企業の多くは「人」に職務がついているため、いくつもの兼任や、部下人数の多すぎによる組織の機能不全や仕事の属人化、並びに後継者人事にも悪い影響を及ぼしています。 これらの問題を解決するために、組織図を単なる結果として扱うのではなく、後継者人事や仕事の効率化も勘案した未来描く戦略的な使い方に挑戦してみて下さい。 加えて中小企業の事情は承知しておりますが、敢えて定期人事異動に挑戦することで貴社の未来が明るくなっていくことを願っています。

専門家紹介


千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

専門分野

□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用

□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)

□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)

□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)

自己紹介

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住

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