情報化・IT活用

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2020/1/30

中小企業の生産性を向上させる、ITシステム導入に不可欠な要件定義のやり方

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生産性向上のためにIT導入をしようとしてベンダーに話をきくと、要件は決まっていますかと尋ねられることがあります。IT専門家がいない中小企業では、ベンダーにIT導入の一切をお任せしたいところですが、自社の業務に合ったITシステムがどういうものかは、その会社の方しか分かりません。
今回は、長年、事業会社と事業会社を支援するコンサルタントの2つの立場で、IT導入における要件定義を行ってきた独立コンサルタント三林英毅氏が、IT導入に先立って中小企業が必ず行わなければならない要件定義の重要ポイントをご紹介します。

中小企業からのよくある質問

生産性向上のためにITシステム導入をしようとしているのですが、IT導入が成功するかどうかは要件定義によって左右されるとききました。要件定義とはどんな作業で、具体的に何を行えばよいのでしょうか。

この質問に回答する専門家

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三林英毅

大手SI会社、監査法人系コンサルティング会社、生命保険会社にてエンジニア、コンサルタントとして多くのプロジェクトに従事。証券会社系総合シンクタンクにて内部管理、財務・経理の業務を行い2015年に独立。

目次

見出しアイコン自社に合ったIT導入に向けて行わなければならないこと

ITの専門家がいない中小企業が、業界で評判の良いITシステムを導入しても失敗してしまうことが多々あります。実際に使ってみると、導入したシステムが自社の業務に合わず、使いこなせないからです。なぜこのようなことになってしまうのでしょうか。

中小企業が導入するITの大部分はレディメイド
中小企業のIT導入は、予算が限られています。したがって、ベンダーにイチからITシステムを作ってもらうことは稀で、パッケージシステムを導入することがほとんどです。
依頼主企業が追加費用を出して自社のためだけの機能を付加してもらうことはありますが、基本的にオーダーメイドではなくレディメイドの服を買うようなものです。

ベンダー任せは失敗のもと
ベンダーやITシステムを選択する基準は、業界での評判、価格、ベンダーのサポート体制などさまざまですが、最も重要なことは、導入するITシステムが自社の業務に合っているかということです。
中小企業が導入したITシステムを使いこなせない最も大きな原因は、自社の業務とパッケージシステムの機能の相性を見極めないまま、導入してしまうからです。
この“見極め”のために、中小企業が行わなければならない作業が要件定義です。
IT導入すれば現状よりはうまくいく、生産性が向上すると信じて、要件定義をせずITベンダーに薦められるままパッケージソフトを導入してしまうのは危険です。

見出しアイコンIT導入にあたってはシステムにやらせたい要件を特定する

IT導入の成功に不可欠な「要件定義」とは、ITシステムに何をやらせたいかを明確にし、文書化することです。

要件定義とは
要件定義の「要件」とは、IT導入を依頼する中小企業が、導入するシステムに何をやらせたいのかということです。これを文書にまとめる作業が「要件定義」です。
要件定義を行うにあたってITベンダーに助けてもらうことはあっても、要件定義を行う責任はITシステムを使う中小企業にあります。

要件定義にITの専門知識は必要ない
「ITのことはよく分からない」、と難しく考えることはありません。生産性向上のために、どんなITシステムを導入して、どんな効果を得たいかだけを考えればよいのです。「こんなことを言ったら、ベンダーに笑われるかも」とベンダーに気遣う必要もありません。提示した要件がITシステムで実現できるかどうか判断するのは、ITの専門家であるベンダーの大切な仕事なのです。だから安心して自社の要望を書き出しましょう。

第三者のコンサルタントを使う
要件を書面にまとめる作業を効率的に行うためには、第三者のコンサルタントを使うことができます。特に、業務の担当者が多忙で、書面にまとめている時間がない場合は有効です。
自社では気づいていなかった要件をコンサルタントが浮き彫りにしてくれることもあります。

要件をベースにベンダーとITシステムを選択する
作成した要件定義書をベンダーに渡したら、当該ベンダーの提供するITシステムが要件をどの程度満たせるかを答えてもらいましょう。
複数のベンダーにこれを行って、最も要件を満たしてくれるベンダーとITシステムを選ぶのがベストです。
仮に選択肢となるベンダーやITシステムがひとつしかない場合も、どんな要件が満たせないのかがはっきりするので、IT化できない業務にどう対応していくかを事前に検討することができます。

見出しアイコン要件定義を行う際の重要ポイント

中小企業が要件定義を行う際には具体的にどのようなことに留意すればよいのでしょうか。 以下に6つのポイントを挙げてみました。


1.業務が見える化されていることが前提
人員に余裕のない中小企業では、ある業務を特定の人が担当し、その人にしかやり方が分からないということがありがちです。
IT導入にあたっては、こうした業務の手順を見える化しておくことが前提になります。すなわち、文書化して、担当者の不在時でも他の社員が行える状態にするということです。他人に引き継げない業務をITシステムにやらせることはできません。

2.既存の業務の仕分けを行うつもりで取り組む
すべての業務をITシステムにやらせることはあり得ませんから、要件定義は、人間が手作業で行う業務とITシステムによって自動化される業務の線引きをする作業と言うこともできます。
まずは、すべての業務を洗い出し、ITシステムにやらせるか否かの検討を行いましょう。

3.業務改善の視点を忘れず
要件定義の際は、現行の業務の中で非効率な部分をITシステムによって改善できないか、また、顧客からの要求に応えられていないことがITシステムで実現できないかも同時に考えましょう。
「こんなことができればいいな」という願望レベルでも要件として文書にすることが重要です。

4.優先順位を付ける
要件として洗い出した項目には重要度に差があるはずです。「これは今回のIT導入で絶対に実現したい」、「できれば実現したい」、「ダメもとで挙げておく」、などです。優先順位を付けることが必要です。

5.業務そのもの以外の要件もあります
要件定義は、業務の内容ばかりに目が行きがちですが、それ以外についても考える必要があります。
例えば、複数事業所がある場合は、そのうちどこでITシステムを使うかを決めなければなりません。業務を行う担当者のうち何人が同時に作業するかを想定して、端末の必要台数を見積もることも必要です。また、顧客からの電話による問合せに画面を見ながら回答する場合はレスポンスタイムも考慮しなければいけません。

6.制約条件を明確にする
IT導入にあたって遵守しなければならない事項を明らかにします。
例えば、法律などの制度の変更に対応するためにITシステムを導入しなければならない場合は、新しい制度が始まるまでにITシステムを稼働させることが制約条件になります。中小企業では、予算が制約条件になることも多いでしょう。

見出しアイコンIT導入後も活きる要件定義

IT導入にあたって行った要件定義は、導入後も重要な役割を果たします。
まず、ベンダーからITシステムで実現できると回答された要件が実際に実現できたかをチェックする元資料にできます。 また、中小企業の成長や事業領域の変遷によって、ITシステムを拡張したり変更したりする場合、当初のIT導入に関わった人たちが同じ担当でいるとは限りません。新しい担当者は当初の要件定義書をベースとして、次のIT導入を検討することになります。
要件定義は、ITによる生産性向上を継続的に行っていくベースラインとなるのです。
適切な要件定義の作成は、ITシステム導入を成功させるだけでなく、その後のIT化を進める上でも重要な役割を果たすでしょう。

専門家紹介


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三林英毅

専門分野

□ IT導入・活用支援

□ 内部統制、コンプライアンス

□ 管理会計

自己紹介

これまで、① ITベンダー、② ユーザー企業のIT担当者、③エンドユーザー、④ 第三者のコンサルタント の4つの立場で、ITシステムの導入から運用までの実務に従事してきました。お客様がITシステムを活用して、効率的な業務を行い、事業を拡大発展させるお手伝いをします。アドバイスだけではなく、設計書、業務フロー、手順書などをお客様とともに作成し、 長期的に経営管理業務を担っていける人材の育成も行います。

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