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2020/1/10

中小企業が「ハラスメント相談窓口」を設置し、相談を受けるときに気をつけること

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もしあなたの会社が、現時点でハラスメント相談体制構築が全くの手つかずだとしたら、早急な対応が必要です。というのも、中小企業でもセクハラおよびマタニティハラスメント(マタハラ)の相談窓口設置が法律上の義務になっていますし、パワハラの相談窓口も、2022年4月までに設置しておかなければならないからです(中小企業の場合)。
今回は中小企業のコンプライアンス担当者からのハラスメント相談窓口についてよくある質問に、コンプライアンスのスペシャリストである朽木鴻次郎氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

時代の変化に対応していくために、弊社でもハラスメント相談窓口をはじめたいと思っています。窓口を設置・運用していくうえで気を付けるべきポイントがあれば、教えてほしいです。

この質問に回答する専門家

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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。

目次

見出しアイコン未対応の会社は今からでもすぐに対応を!

ハラスメント相談窓口や相談体制を整えることは中小企業でも急務です。また、ハラスメントの苦情や相談を受けた場合は、迅速に適切な処置を取らなければなりません。

2007年の雇用機会均等法の改正に伴い、企業はセクハラおよびマタハラの防止対応措置の一つとして、苦情や相談の受付窓口を設けなければならなくなりました。また、2019年にはいわゆる「パワハラ対策法」が可決され、2020年4月に施行されます。

パワハラ対策法により、企業はハラスメント全般の苦情や相談の受付窓口を設置する義務を負うことになります。中小企業にパワハラ対策法が適用になるのは2022年4月からですが、今から準備していても早すぎることはないでしょう。

従業員も「なぜうちの会社にはハラスメント相談窓口がないんだろう?」と不審に思ったり、ハラスメント被害の不満から、いきなり外部の公的機関に飛び込んだり、SNSに一方的意見を書き込んでしまったりなど、思わぬ形で波紋が広がるリスクもあります。
もし、ハラスメント相談窓口の設置や体制づくりが全く行われていなかったとしたら、すぐに対応する必要があるでしょう。
【注意】ここで言う「ハラスメント」とは主には、セクハラ、マタハラ 、およびパワハラを意味します。いじめや悪質ないじりも場合によってはハラスメントに該当します。
Engun記事『中小企業におけるいじめ対策と対処法』

見出しアイコンまず着手すべきこと - 体制づくり

中小企業でハラスメント対応窓口をはじめるために、押さえておきたいポイントをご紹介しましょう。 ハラスメント相談を受け付ける仕組みを複数持つことで、従業員も安心して相談することができますし、ハラスメント発生の抑止につながることが期待できます。

トップ自らがハラスメント防止を宣言する
「ハラスメントは絶対防止する。我が社ではハラスメントは許さない。もし起こったとしても迅速に対応する。被害者は必ず守る」
そんなことを社長、会長、あるいは創業者といった会社のトップから社内外に発信してもらいます。 会社としての強い意志を外部に示すとともに、従業員に安心感を与えることができます。

ハラスメント対策の規則や体制を構築する
「ハラスメント防止・相談対応規則」といった社内規定に、前述のトップの宣言を落とし込みます。 就業規則の一部を構成する形式にすると良いでしょう。もちろん就業規則ですから、全従業員が容易にアクセスできる形にしておきます。

ハラスメント相談窓口を設ける(内部)
少なくとも男女1名ずつの相談員、その上長として責任者(部課長レベル)1名がチームとしてハラスメント相談にあたります。
中小企業は少数精鋭で日々の業務にあたっていますので、専従の従業員をおいた専門部署を新設する必要はありません。人事部や総務部、管理部などに兼任の相談員を置けばいいでしょう。
社内にコンプライアンス委員会が設置されている場合は、コンプライアンス委員のうちの誰かに相談員を兼務してもらうという方法もあります。

外部窓口の設置を検討する
法律事務所やコンサルタントなどが、ハラスメント相談の外部窓口業務を行うことがあります。
外部窓口のメリットは、専門家であること、第三者であるので公平な対応が期待できること、秘密保持の確度が高いことなどが考えられます。
一方で、委託先は慎重に選定しなければならないこと、コストがかかることなどがデメリットといえます。まずは、内部窓口で対応し、相談件数や状況を見て外部窓口を設けるか検討するといいでしょう。

別ルートの内部通報制度の併設を検討する

相談窓口とは別のルートの「内部通報」制度を併設することも検討に値します。
相談窓口は被害者本人の対応が主な活動になります。もちろん相談窓口は被害者からの相談対応に限定されるべきものではありません。
しかし内部通報制度があれば、被害者本人に加え、周囲でハラスメント言動を見かけた従業員からの情報も吸い上げることができるでしょう。

見出しアイコン設置にあたっての注意点

規則は作った、相談員や責任者は任命した、しかし、それだけでは十分ではありません。 ここからは相談窓口設置にあたっての注意点を解説します。

相談員に対する教育訓練
ハラスメント相談員に対しては、基本的な教育訓練が必要です。重要ポイントは次の3つです。

  • コンプライアンス (法令遵守)の意識
  • セクハラ、マタハラ 、パワハラなど、各種ハラスメントの知識
  • 「相談を受ける」ための技術

これらは、参考書も数多く出ていますし、公的機関等によるガイドラインやマニュアルもネットで検索することができます。 どれも参考にはなるものの、体系的に学習してもらうために、半日から1日程度の研修に参加させることが有効であると私は考えます。

相談員のストレスケア・メンタルケアの必要性
相談員は、混乱し苦悩する相談者に寄り添って解決方法を模索します。また厳重な秘密保持義務も負うため、相談員のストレスは想像以上のものになります。
会社としては、相談員のストレスとメンタルのケアに対する必要性を理解し、対策を講ずることが大事です。
相談窓口の責任者(部課長レベル)は、相談員の心身の状況を常に把握・ケアし、相談員自身が悩んでいるようであれば、手を差し伸べて、問題を一緒に解決するべく努めることが肝要です。

活用される相談窓口を目指す
「ハラスメント相談窓口は設けたが、全然相談がない。我が社にはハラスメントなど発生していない証拠だ!」
そんな風に考えるのはちょっと待ってください。相談が全くないということと、発生していないということは必ずしもイコールではありません。
例えば、「窓口の存在が知られていない」とか、「信用されていない」といったケースが考えられます。

これは一例ですが、1000人近い従業員を抱え、ハラスメント相談窓口も充実している企業でさえ、年間の相談は2、3件だけでした。
しかし、ある時匿名の社内アンケートを実施したところ、軽微なものから深刻なものまでハラスメントの告発がその10倍程度ありました。
こうした理由のひとつとして、ハラスメント相談窓口の存在が知られていなかったことがあります。社内ポータルサイトにも掲載されていたし、入社時の研修でも紹介していましたが、従業員の認知度は50%にも届きませんでした。

また別の会社の例ですが、従業員に対し聞き取り調査を行ったところ、「相談窓口に行くと不利益につながるのではないか?」、「相談員は本当に秘密を守ってくれるのか」、「そもそも相談員の所属する部署がパワハラの温床だ」といった意見が集まりました。
こうした相談窓口や相談員に対する不信感から機能不全に陥っているケースもあります。これを解消するには地道に信用を積み重ねるしかないでしょう。

  • 相談がないのはハラスメントがないことを意味しない
  • 窓口の存在を周知徹底させる
  • 相談窓口の信頼性を高める

これらのポイントを意識して、活用される相談窓口を目指しましょう。

見出しアイコン企業のハラスメント対応は時代の要請

ハラスメント相談窓口の設置は中小企業にとって急務です。対応の遅れは法律違反となるだけではなく、なぜうちの会社にはハラスメント苦情・相談窓口がないのだろう?と従業員の不安を増大させることにも繋がりかねません。中小企業といえども、やはり時代の流れ、法令の要請には逆らうことはできません。この記事を参考に、ハラスメントの相談窓口を設置し、体制を整えていきましょう。

専門家紹介


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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

専門分野

□ コンプライアンスを専門分野としている。

□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。

□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。

自己紹介

84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生

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