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2019/11/19

中小企業におけるいじめ対策と対処法

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中小企業におけるいじめは、いったん発生してしまうと、いじめの構造が固着化してしまう傾向があります。中小企業ではいじめの当事者の配置転換や異動が難しいからです。
さらに、いじめがパワハラや深刻な人権侵害にあたるケースもあります。ここでは中小企業でのいじめ対策を考えてみます。

今回は中小企業のコンプライアンス担当者からの相談に、法務の専門家 朽木鴻次郎氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

会社の中で、どうやらいじめが起こっている疑いがあるのですが、どのように対処すればよいかわかりません。

この質問に回答する専門家

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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。

目次

見出しアイコン単なる“いじめ”では済まないケースも!?

職場では、上図のようにパワハラ、セクハラ、いじめやいじりが複合的に発生しているのが現実です。
職場でのいじめは、直接の被害者だけではなく、周囲の人々のモチベーションも下げてしまいます。でもちょっと待ってください。そのいじめは本当に単なる「いじめ」なのでしょうか?

パワハラの可能性
上司や先輩が、職務に関係したことで部下や後輩をいじめているとしたら、パワハラの可能性があります。上司や先輩といった職務上の優越性を背景に、適正な業務の範囲を超えて、被害者に肉体的、精神的なダメージを与えているとしたらそれはパワハラです。

セクハラの可能性
性的な関係や交際を迫り拒絶されたからといって、仕事の無理難題を押し付けたり、暴言を吐いたりしていじめる。
女性はかくあるべしと差別的意識に基づいて、掃除やお茶入れなどを高圧的に強要する。 特定の社員を標的にしてこんな行為が繰り返されていたら、いじめではなくセクハラを疑うべきです。

注意していただきたいことは、セクハラもパワハラも、放置しておくと会社としての責任を問われることがあるという点です。

いじりだったら問題ない?
いじめの当事者に聞いてみると、以下のような答えが返ってくることがあります。

「いじってるだけですよ〜! いじられて話題にされて、アイツも喜んでるんですって!」
加害者はそんなことをへらへらと笑いながら話します。
「高学歴だけど女子力低い」「ブサイク系の下ネタOKキャラ」「女にモテない草食男子系」「ネクラなオタク」・・・。どれもみな、悪質ないじりに発展する可能性があるネタです。
勝手にキャラクター設定されて、ネタにされていじられてしまう。中小企業の狭い職場で望んでもいない、いじりが固着化すると、被害者にとっては地獄です。

表面上は笑って受け流しているし、自虐ネタをわざわざ提供していることもあるので、被害者がどれほど辛いかを周りが気づかないケースも多くあります。

悪質ないじりは、パワハラやセクハラ、人格否定・人権侵害を笑いでまぶしてごまかしている卑劣なものです。ひどい場合には標的にされた被害者が自殺に至ることもあります。

パワハラやセクハラという深刻な問題を「いじめ」や「いじり」として矮小化したり、実態は暴行、暴言といった犯罪行為だったりすることも現実に起きています。(2019年、神戸小学校の若手教師へのいじめ事件は、いじめの名を借りた犯罪だと考えられます。)

悪質ないじめに会社はどう対応すべきか
パワハラやセクハラ、人権侵害には毅然とした対応が求められます。
いじめやいじりをよく観察して事実関係を調べてみると、実はパワハラやセクハラかもしれません。
それは明確な人権侵害に該当し、許されるものではありません。また、放置すると会社にも責任が及ぶものなのです。
会社として毅然とした対応、場合によっては加害者の処分も検討すべきでしょう。

見出しアイコン幼稚ないじめという問題

一見、幼稚に思えるいじめが、実は人の心をひどく傷つけるものなのだとご理解ください。 「くだらないことをしているな」という認識では済まされない、根の深い問題である可能性があります。

幼稚ないじめの具体例
例えば「お菓子外し」といういじめです。職場にお客様や取引先からお菓子が差し入れられたり、おみやげとして誰かが持ってくることがあります。それを職場で配るとき、標的の一人だけをスルーして配らないといういじめです。
ひどい場合は「あなたは要らないよね!」などとわざわざ言うケースもあります。

実に幼稚ないじめです。しかし被害者は常におびえ、いじめられている状況を気まずく感じ、苦痛から会社を辞めていくケースも珍しくありません。貴重な人材をそんなことで失うことは、会社にとっても大きなダメージです。

幼稚ないじめの対処は難しい
セクハラやパワハラに対しては毅然と対応することが重要ですが、幼稚ないじめに対してはどうしたらいいのでしょうか?
幼稚ないじめが厄介なのは、就業規則違反などによる処分までは至らないレベルであることです。標的の社員にお菓子を配らないからといって、懲罰を与えることはできないでしょう。

気がついた上司や先輩が「いじめはやめなさい!」と注意して、それで幼稚ないじめ行為がなくなるなら話は簡単なのですが、
「〇〇さんのことが好きでヒイキするんですか!」
「お菓子外し? 気のせいでしょ。お菓子の数には限りがあるんですよ」
などと言い逃れされてしまいます。
中小企業経営者の中には、加害者や被害者、その上司などを一同に呼び出して強権的に状況の改善を図る方もいらっしゃいます。社長命令として“仲直りの握手”をさせるのです。

しかしほとんどの場合、これで問題は解決しません。むしろいじめが陰湿化・悪化するおそれすらあります。
こうした上からの命令では、いじめの本能を押さえ込むことができないのです。

ヒトは『いじめ』をやめられない?
人間の集団には必ずいじめが発生する、つまり「ヒトは『いじめ』をやめられない」。そう言い切る脳科学者もいます。
人間が集団で共同社会を維持運営するためには異質な者を排除する必要があって、生物としてのヒトは「排除本能」を持っている。その本能が過剰に発揮されるのが「いじめ」であり、人間の本能がいじめを生む。だから、人間は意識して理性でいじめの本能を抑えなければならない、というのです(脳科学者中野信子氏。2017年小学館新書「ヒトは『いじめ』をやめられない」参照)。

見出しアイコン中小企業でいじめをなくすには未然に防ぐしかない

困ったことに、ほとんどの加害者は「たいして悪いことじゃない」と思っています。最悪の場合、いじめているという意識がなくいじめを楽しんでいることすらあります。
中小企業が社内いじめをなくすには、未然に防ぐことがもっとも重要です。

見出しアイコン基本はいじめを未然に防ぐ意識改革に取り組むべし

いじめの構造が固着化してしまうと、物理的な方法、つまり人事異動しか解決手段がなくなります。加害者と被害者が接点を持たないように異動させるのです。しかし、最小限の人員で仕事を回している中小企業では、そうした対応ができないケースも多いでしょう。

そこで、やはり未然の防止が肝心なのです。
深刻なハラスメントから幼稚ないじめまで、未然に防止するためには、トップや管理職を含めた社員全体の意識として「いじめやハラスメントは絶対ダメ」そんな思いを強く持って、問題が小さいうちにその芽を摘むことがベストです。

いじめやハラスメント行為は絶対しないんだという意識を持つことこそが最善の方法です。 中小企業においては、いじめが起きてからでは遅いのです。コンプライアンス担当者が中心となって、いじめやハラスメントの防止をテーマとした研修を定期的に開催するなどの啓発活動を継続することには大きな意味があるといえるでしょう。

見出しアイコンいじめは起こさないことが最大の対策

いじめや悪質ないじりは、名前を変えたパワハラやセクハラ、深刻な人権侵害だったり、犯罪行為だったりすることさえあります。
幼稚ないじめは、共同社会から異物を排除しようという本能が過剰に発揮された結果発生するという説もあります。
いじめが発生して固着化すると、人事異動という究極の方法を採用することが難しい中小企業では、残念なことですが、どうすることもできなくなってしまいます。 いじめを予防すべく、平素から職場でのいじめはなくそうという強い意識づけのためにも、研修や啓発活動を継続するようにしましょう。

専門家紹介


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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

専門分野

□ コンプライアンスを専門分野としている。

□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。

□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。

自己紹介

84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生

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