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2020/3/19

中小企業が秘密保持契約を結ぶ上で気を付けるべきポイント

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近年、共同研究や共同開発の名前に隠れて、中小企業の独自の技術や知的財産権などの搾取が問題となっています。
(参考リンク: Engun note「リスクヘッジに不可欠な契約交渉のコツ」記事 )
プロジェクト開始前にきちんとした内容の秘密保持契約を締結しておくことの重要性は、中小企業においてますます高まっているといえるでしょう。
今回は中小企業から寄せられる、秘密保持契約締結の注意点についてのよくある質問に、企業での契約業務や契約交渉など、法務全般に詳しい朽木鴻次郎氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

最近、異分野の大手企業から、当社の技術を活用した新規プロジェクトの申し出がありました。技術やノウハウが搾取される事例もあると聞き、しっかりとした秘密保持契約を結びたいと思っています。契約する上で抑えるべきポイントを教えてください。

この質問に回答する専門家

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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。

目次

見出しアイコン秘密保持契約を結ぶ際の注意点とは

本格的にビジネスを進めようとする場合、まずは秘密保持契約を結ぶことを提案したり、されたりします。その際の注意点を考えてみましょう。自社の大切な技術やノウハウ、知的財産権を不当に搾取されないためにも重要なことです。

何のための情報? 目的は?
たとえば「新型ロボット」を開発するための情報を契約の対象とした場合、契約目的はもちろん「新型ロボットの開発の検討」です。このことは契約書面にきちんと記載する必要があります。ただし極秘プロジェクトのとき、この段階でコードネームを使うこともあります。

情報開示は双方? 片方のみ?
秘密保持契約を結ぶうえで、情報開示について2つのパターンがあります。1つ目は、両社がそれぞれ持つ新型ロボットに関係する情報を相互に開示するケースです。この場合、もちろん両社ともにもらった情報の秘密を守らないといけません。


2つ目は、片方の当事者だけが情報を受け取り秘密保持義務を負う場合です。もし相手方から提示された契約書案が、下図のように片方だけ情報を受け取り、秘密保持義務を負う構成になっているとしたら要注意です。情報を相互に開示し、両社とも秘密保持義務を負う内容への修正が必要となるでしょう。

従業員と会社は別
契約は会社同士が行います。しかし実際に検討作業を行うのは役員・従業員です。きちんと秘密を保持するためには、次のような条文が必要です。

「秘密保持情報を開示するのは、その秘密情報を扱う必要のある者に限定する」
「会社はそういう役員従業員に十分な秘密保持の義務を負わせる」


見出しアイコン知り得た情報に関する注意点

秘密保持契約により知り得た情報や、開示した情報はどう取り扱えばよいのでしょうか?また、契約の期間はどのくらいにするべきなのでしょうか?秘密情報に関する注意点を見ていきましょう。

もらった情報はすべて秘密?
開示してもらった情報はすべて「秘密情報」として取り扱わなければならないのでしょうか?当然そうとは限りません。以下の3つの情報は、相手方からとやかく言われることなく自由に扱うことができるはずです。

1.すでにみんなが知っている情報(公知の情報)
2.自社が独自に開発した情報
3.第三者から秘密保持義務を負わずにもらった情報

もらった情報はすべて秘密?
では、情報開示・秘密保持の期間はそれぞれどの程度と定めておくべきなのでしょうか?

1.情報開示をする期間は「期限つき」
秘密保持契約の目的は、プロジェクトにおいて、今後お互いをパートナーとして進めていくかどうかを検討することです。その検討期間は長くても一年程度ではありませんか? 
ですから「この秘密保持契約の期間は契約締結日から一年間とする」のように期間を定めておきましょう。

2.秘密保持をする期間は「無期限」
一方で、情報開示をする期間(契約の期間)が終わった途端、すぐに情報をばらまかれては、意味がありません。そこで「この契約の期間が終了しても、秘密保持の義務は(永遠に)継続する」と定めておきます。ここ、ポイントですね。

口頭情報の取り扱いはどうすべき?
紙の情報、電子情報はともかく、口頭で開示した(話した)情報は「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、後々問題となるリスクがあります。そこで口頭で開示した情報は、「あとで”秘密情報です”と書面で確認する」と契約で定めておくとよいでしょう。

無断複製を防ぐにはどうすべき?
秘密情報を勝手に複製されると、情報漏洩のリスクが高まります。そのため「無断で複製してはいけない、開示した情報等は契約後に返却すべし」と契約書にしっかり明記することが必要です。自社で開発した試作品とかサンプル模型とか特殊な物品を渡す場合、相手方に複製されてしまうことは避けなくてはならないでしょう。渡した情報は、必要な検討が終わったら返却してもらうようにしましょう。

目的外での使用を防ぐにはどうすべき?
秘密保持契約を結ぶ目的は、前述の例を用いると「新型ロボットの開発を共同で進めることを検討するため」でした。そのために開示した情報を、たとえば自社事業の競合製品となる「新型冷凍食品」の開発に使われては困ります。したがって、「目的(新型ロボットの開発検討)以外には情報を使ってはいけない」と定めることが必要です。

見出しアイコン秘密情報に関するトラブルを回避するために

秘密情報に関するトラブルを回避するには、以下のような点に留意しましょう。

情報の正確性は保証(担保)しない
開示する側としては、後々「もらった情報は間違ってたじゃないか!」とケチをつけられ、損害賠償問題などに発展しては困ります。なにしろ、研究・開発段階なのですから。
一方で、相手方としても、間違った情報をもらわないか心配でしょう。そこで契約書には「誠実にそのとき正確だと思う情報を開示するけれども、その正確さについての法的な責任まで(つまり損害賠償等)の責任は負わない」などと定めておくのが通例です。

第三者への開示
扱う情報によっては、専門のラボ等で分析処理などしてもらう必要があったり、自社の機器との相性を検証するために第三者に鑑定してもらうケースがあります。
一方で、開示する側としては、勝手に知らない第三者へ秘密情報を出されても困ります。そこで契約書には次のように定めておきます。

必要があって第三者に情報を渡すときには、
1.開示前に通知してもらって、
2.OKした場合に限って第三者に出してもいい
3.ただし、その第三者にも守秘義務を課し、
4.その責任は相手方会社にちゃんととってもらう

契約範囲外の約束はしないこと
秘密保持契約はよく「ビジネスへの入場券」といわれます。
入場券ではありますが、電車に乗ってどこかに行くことまでを約束するものではありません。相手方が何か都合よく解釈して、妙な言いがかりをつけることを防ぐ意味で「この秘密保持契約を結ぶことで、なんらかのビジネス関係、パートナーシップとか売買とか、現在/将来について約束することはない」と念を押しておくことは意味のあることです。

見出しアイコン契約違反が起きた時、秘密保持契約は役に立つのか

秘密保持契約に相手方が違反して、情報を漏らしてしまったときはどうしたらいいのでしょうか?
当然、こうした事態に備えて、損害賠償の条項を設けておくことは必要です。ところが、いったん漏洩した情報はもう取り返しがつきません。特にインターネットが発達した現代ではその傾向が顕著です。相手方が意図的に行ったにせよ、事故で漏洩してしまったにせよ、取り返しがつかないという点で結果は同じです。

損害賠償の定めがあったとしても、大抵の場合、損害額の算定は難しいものです。それに「お金をもらってもどうしようもない」というのが本音です。身もふたもない話ですが、相手方をよく見極めて、信用できる相手を選ぶしかないのです。

こちらの立場が弱い(仕事が欲しい・相手方と取引したい)ときにはどうしても新規プロジェクトの検討を進めなくてはならないこともあると思います。そんなときは、開示する情報を選びに選んで、より慎重に進めましょう。

見出しアイコン契約前こそ慎重に

前述したように、秘密保持契約はこれからのビジネスへの「入場券のようなものだ」といわれることもあります。ところが、ここで考えてみた通り「落とし穴」のようなものもありますので、気をつけて対応したいものです。
相手方(パートナー、パートナー候補)を厳選すること、それが一番大切です。また、契約業務にあたっては、良い弁護士や法務のエキスパートのチェックが必須ですので、その点にもご留意ください。

専門家紹介


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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

専門分野

□ コンプライアンスを専門分野としている。

□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。

□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。

自己紹介

84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生

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