生産管理・製品管理

生産管理

2020/1/10

中小企業がとるべき、リードタイム短縮を実現する方法とは

[中小企業がとるべき、リードタイム短縮を実現する方法とは]トップ画像

中小企業の生産現場は時代の変化によって、急速な需要変動への対応、また迅速な顧客対応が求められており、「リードタイム短縮」は至上命題となっています。
今回は、中小企業のリードタイム短縮方法について、(株)石川改善技術研究所の代表取締役である石川雅道氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

競争力をあげるためにも、生産現場でのリードタイムを短縮したいと思っているのですが、良い方法やコツがあれば教えてください。

この質問に回答する専門家

石川 雅道さん画像

株式会社 石川改善技術研究所

代表取締役

石川 雅道

家電メーカーにてデバイス・半導体の生産ライン企画、設計、立ち上げなど行いながら、生産性向上を目的とした改善活動も担当。「グローバルよりローカルに」「集中より分散」とものづくり現場を鼓舞するエンジニア。

目次

見出しアイコンお客様が一番期待することは?

「品質(Q)、納期(D),価格(C),サービス(S)のなかで、自社の強みは何か」と、お客様に直接尋ねて歩いた中小企業経営者がいました。品質か価格という答えを期待していたそうですが、お客様からの声は、「こちらが困った時に、少し無理をしてでも短い納期で対応してくれること」だったそうです。
短納期で対応し続けるにはリードタイムの短縮が課題となります。

リードタイムの短縮を目指して仕掛を減らそうとすると、今まで見えなかった自社の弱点が明確になります。生産形態やモノの流し方の不備、設備能力のアンバランス、生産計画の未熟さ、時間の掛かる設備保全、作業者のスキル不足などに気がつくでしょう。弱点克服に取り組むことが、お客様の要望に迅速に応えられる企業体質にします。

見出しアイコン大量生産時代の呪縛(じゅばく)

1990年代初め頃までは、同じモノを大量に生産すれば売れた時代でした。ところが、嗜好の個性化が進んだ現代は需要予測が難しくなります。
商品の種類が多岐にわたり生産量の変化が激しくなる時代にあって、ものづくり現場はスピードが要求されています。単品種を大量につくる考えの製造現場ではリードタイム短縮もままなりません。
多くの中小企業には次のような既成観念や不安があるでしょう。

「出来高を上げるべきだ!」
大量生産時代は少しでも多くつくれば儲かると考え、設備や人を分業させていたため、設備を機能別にまとめるジョブショップ型と呼ばれる考え方でレイアウトしました。工程別や作業ごとに出来高数を評価する傾向があり、前後工程を意識せずに担当領域だけの効率向上が基本でした。
しかし、ボトルネック工程以上に生産量は増えません。工程ごとにモノが滞留して完成に至るまでのリードタイムが長くなるだけです。

「仕掛品を減らすと不安だ!」
  仕掛を減らすと生産性が落ちるという不安を持つ人がいます。材料が無かったり、前工程から製品送られて来なかったりすると、設備や人が手待ちの状態が生じるからです。
仕掛品が必要なのはボトルネック工程の前だけです。むやみに仕掛品が多くあれば良いというものではありません。過剰な仕掛で、何が、どこに、いくつあるのかが分からず、作業者がモノを探す、余計なモノを移し替えるというムダな動作が発生します。大量の仕掛品は、逆に生産性を落としてしまいます。

「今でさえ管理が困難だ!」
汎用の機械を段取りして何でも生産できるからと、モノのどこから、どこへ(from-to)を決めずに生産していませんか。こうした状態を「乱流」と呼びます。
品質のトレーサビリティを確保する場合、どの設備、どのライン、誰の手によって出来上がったかを分かるようにします。しかしモノの流れが乱流で複雑化すると、管理する工数が増え続けます。モノの流れが分岐したり統合(合流)したりする箇所が多いと、仕掛が溜まりやすくなります。流れをシンプルにすることが管理を楽にします。

見出しアイコンリードタイム短縮最初の一歩

今回は、運搬時間も停滞とみなし、リードタイム=加工時間+停滞時間として解説します。
停滞時間は交通渋滞と同じです。まずは、現場に仕掛品が滞留する停滞時間を短縮しましょう。設備改善による生産性向上やプロセス(例えばカステラを焼く時間と温度など)“条件の改善”ではなく、“お金を掛けずに働く人の知恵でできること”から始めます。
労働生産性を上げる取り組み、5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)や品質改善に取り組む小集団活動と何ら変わりなく、活動をリードタイム短縮の方向から行うと考えてください。

見える管理の導入
造ったモノの置場やこれから造ろうとするモノの置場が一目で分かる現場にしましょう。置く場所をテープや掲示板などで、どこに(定位置)何が(定品)いくつ(定量)を管理します。三定管理と呼ばれるものです。
製品や部品を台車で運搬する現場では、台車置場を駐車場のごとく明示します。量と位置を制限し、誰が管理しているかを表示しましょう。必要なモノを分かりやすく置くことは、5Sの整理・整頓と同じです。皆の知恵と工夫が現場を変えるきっかけになります。

モノの置き方
モノの置き場は、作業する前(レイゾウコと呼ぶ例あり)と、作業を終えたモノ(一般的にストアと呼ぶ)とを区分します。
作業する前のモノは少なくします。先々のモノを持ち込まないで下さい。作業し終えたモノはつくった人が管理します。つくったモノは押し売りせずに、後工程のお客様に取りに来てもらいます。必要なタイミングを意識し、お客様別やつくった順番が分かる置き方の工夫をします。
ストアに仕掛品が一杯になったら早くつくり過ぎたということですから生産を止めます。製造現場が主体的に管理できるようになります。

見出しアイコンリードタイム短縮の基本手法

最初の一歩ができるようになったら、3つの方法(「整流化」、「間締め」、「多能工」)を順に取り入れます。モノの流れをつくることが狙いです。現場のハードルの高い問題が見えるようになるでしょうが、できない理由をあげつらうより、どうすればできるかを考えて取り組みましょう。

整流化
設備やラインが汎用であっても、仮想の専用化を行って製品ごとに割り振ります。
同じ機能でも能力に差がある設備が複数台あるとき(すなわち流れの分岐・合流が生じる場合)には、生産能力バランスを図りながら、その流れの矢印が少なくなるように決めます。そうすることでモノの流れの澱む箇所を減少させ、仕掛が減ります。また、管理工数が削減でき、品質トレーサビリティが簡単になります。同じ製品を同じ設備で流すことで、段取り回数が減り、不良発生率も下がる結果をもたらします。急な生産依頼があっても、対応が容易という利点もあります。

間締め
整流化が浸透すると現場の仕掛品が減るので、スペースに余裕ができます。空いたスペースを使って、物理的な距離を短縮します。これを「間締め(まじめ)」と呼びます。
流れが決まった設備同士や作業台を近づけることで、仕掛を持つ箇所が少なくなり、運搬のための歩行距離が縮まります。何か製品の異常に気がつけば、前工程へすぐに伝えることができ、不良品の大量発生を防止できるほか、仕事が遅れているときに助けることも可能になります。冗談ですが間締めを“真面目”にやれば、大きな余剰スペースを生み出せます。

多能工
「間締め」ができると、多能工を生む環境が整います。多能工とは、一種類の設備の専門家ではなく、異なる工程の設備も扱える技能を持つようになることです。あるいは複数の作業を担うことです。
これが可能となると、作業者がボトルネック工程の設備はどこかを理解して、必要最低限の仕掛だけ持って生産することを実践できます。今まで以上に自分が良い製品を作るという高揚感を感じ、働く意欲も増します。

見出しアイコンお客様の信頼と強い企業体質

他社にはない卓越した技で造るモノを除くと、品質やサービスで大きな差をつけることは余り期待できません。国内工場は、労務費の安価な海外に価格では勝てなくとも、モノが納入されるまでのリードタイムで勝つ可能性は高いでしょう。お客様が希望する短納期に応えられる現場対応力を持てば、価格競争に巻き込まれることは少なくなります。

自社の対応力の無さを認識せずにお客様の需要変更で生じた仕掛品や在庫に埋もれて悲嘆に暮れるより、全社をあげてリードタイム短縮に取り組んでみましょう。お客様には歓迎され、仕掛削減に伴う潤沢な手元資金と活動で育った人材も会社に残るはずです。

専門家紹介


石川 雅道さん画像

株式会社 石川改善技術研究所

代表取締役

石川 雅道

専門分野

□ ものづくり 生産管理(現場改善、在庫削減、ヒューマンエラー対策、設備改善など)

自己紹介

1951年秋田県生まれ。家電メーカーにてデバイス・半導体の生産ライン企画、設計、立ち上げなど行いながら、生産性向上を目的とした改善活動も担当。国内外の設備技術者にIEや安価で小型の設備である「からくり」教育を行う。2009年に創業し、ミラサポ専門家派遣者などモノづくり支援で現在に至る。
「グローバルよりローカルに」「集中より分散」と今時の流行に抗う考え方でものづくり現場を鼓舞するエンジニア。

・この専門家の他の記事をみる

・このカテゴリーの他の記事をみる

Engunのメールマガジンに登録する
Engunの冊子をダウンロードする

Introductionご案内

Engunの専門家に質問する