生産管理・製品管理

生産管理

2020/1/9

中小企業が製品の品質を改善するための、標準化のポイントとは

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中小企業において標準化が求められるのは、品質を安定させムダなコストを削減し、経営改善につながるからです。バラツキの原因を可視化し、現場の人間で話し合うことを通して「標準」というルールをつくりましょう。
今回は品質改善・標準化について、ものづくり支援のスペシャリストである株式会社石川改善技術研究所の石川雅道氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

製品の品質を改善するために、作業の標準化を図りたいと思っています。標準化するための留意点を教えてほしいです。

この質問に回答する専門家

石川 雅道さん画像

株式会社 石川改善技術研究所

代表取締役

石川 雅道

家電メーカーにてデバイス・半導体の生産ライン企画、設計、立ち上げなど行いながら、生産性向上を目的とした改善活動も担当。「グローバルよりローカルに」「集中より分散」とものづくり現場を鼓舞するエンジニア。

目次

見出しアイコン質の向上、質の安定


写真は秋田県大仙市で開催された全国花火競技大会で打ち上げられた「芯入割物」と呼ばれる花火です。全国から選ばれた花火師が色彩や形、配色などの美しさを競い合います。
打ち上げられる玉直径28.5cmの中に様々な色を形成する小さな火薬の“星”を並べるのですが、並べる時の誤差1mmが上空では1mのズレに拡大されます。
花火師は如何にバラツキを少なくするかが勝負です。調和した美しさを魅せる“質の向上”に挑み、それが結実した姿が夜空に咲く大輪の花となるのです。

経営に影響する“品質”
ものづくりの現場では芸術的な技を競う必要はありませんが、品質不良は中小企業の評価を下げ、経営を圧迫します。
なぜなら不良品を作ることは、材料ロスの費用だけでなく、納入数を確保するために再投入した労務費やエネルギー費、さらには不良品を廃棄するための費用などが余計にかかるからです。
“質の安定”を図ることは製造コストを下げ、経営を改善することになるのです。

見出しアイコンバラツキを管理する


品質管理を、ゴルフ練習場で打ったボールの位置を例に解説しましょう。AさんとBさんの位置を見て、読者の皆さんはどう思いますか。
Aさんの場合、グリーンに乗った位置の平均値はセンターに近いのですが、バラツキが大きいのが問題です。Bさんは、ボールの位置の平均値がセンターからずれていますが、バラツキは小さくまとまっています。

バラツキを抑える
ある工場の検査では、お客様からの要求仕様の加工寸法範囲に入っているかを全数測定しています。
もし測定したデータの平均値が加工寸法の許容値の中心値にあったとしても、バラツキが大きければ不良率は高く、製造コストがアップします。したがって、バラツキをコントロールする必要があります。
この工場のケースは前述のAさんの場合に相当します。素人ゴルファーは使用クラブのせいにしてしきりと道具を見直しますが、製造現場では原因分析をすることが重要です。原因分析のアプローチの仕方にも基本的な「標準」があります。それは、「QCの七つ道具」を使うことです。

「QCの七つ道具」によるアプローチ
品質管理(QC)の方法として古くから使われる「QCの七つ道具」と呼ばれるものは、起きた現象を図や表を用いて見えるようにするものです。①パレート図、②特性要因図、③ヒストグラム、④グラフ、⑤チェックシート、⑥散布図、⑦管理図からなります。
「QCの七つ道具」使用目的は品質問題についてデータを駆使して表現し、誰でも客観的に状況を把握して判断できるようにすることです。多くの図表は、エクセルで簡単に作成できます。データの図式化は工夫のしどころです。

見出しアイコンバラツキの原因を探る


近年、この基本的なQCの七つ道具を社員に教育しない企業も多くなりました。 「企業は人なり」ですから、教育こそ企業をつくります。教育が十分でない社員は、初心者ゴルファーが十分な練習をすることもなく、ゴルフコースでいきなり打つようなものです。
最低限必要な基本は、時間や費用を惜しまず“教え込む”ことが必要と言っても過言ではありません。人材教育の手抜きは、後々品質の手抜きといった大きなトラブルを招きかねないのです。

問題点を可視化する
上図の右上にはパレート図を載せています。縦軸に不良発生件数を、横軸には不良項目を棒グラフにして、多い順に並べています。また、不良の累計比率を折れ線グラフで表しています。不良項目はひとつだけとは限りません。いくつかある不良項目が発生頻度の高い順に分かるのが、パレード図の特徴です。
こうした図を使う目的は、問題点を浮き彫りにすることです。グラフ、ヒストグラム、散布図、管理図が持つそれぞれの特徴を理解し、目的を意識して使い分けて下さい。

原因を探る特性要因図
真の原因に至るため、品質の問題とその原因(要因)を分析する「特性要因図」をつくります(上図左の魚の骨のような図です)。
人(Man)、材料(Material)、設備(Machine)、方法(Method)の4つから要因を分析することが一般的です。4項目の英語の頭文字を集めて、4Mと呼ぶこともあります。
「何故」を5回ほど繰り返し、不良が発生した真因を探ります。できるだけ多くの参加者(作業する者全員が望ましい)との議論から真因を見つけ、再発防止策を考えましょう。

職制にとらわれない議論を
不良発生の原因を考えるには、現場のことをよく知らないとできません。しかしベテラン作業者の意見だけに頼らず、若手にも積極的に発言する機会を与えることも大切です。
ベテランから若い作業者まで特性要因図を使って議論すれば、原因の特定だけでなく技術やノウハウの共用化にも繋がります。今後の再発防止策を議論するという過程が重要であり、その対策は自分たちで決めた新たな「標準」というルールになります。

見出しアイコン標準化の留意事項

「標準」というルールがなくても製品はできますが、作業が属人化すると品質のバラツキを招きます。結果として不良品が発生する確率が高くなります。
仕事を進める上で、誰でもが同一品質のものを作れるように作業手順や作業標準等のルールを取り決めます。これが「標準」です。

守られる標準に
標準を作成しても、作業する当の本人が作成に関わっていないと使われなかったり守られなかったりします。特性要因図による議論に皆が参加しなければいけない理由がそこにあります。
また、標準化を決めた背景や理由を書き添えることも必要です。実際、「滞留した原料は廃棄すべき」という標準があったにも関わらず、その理由を知らずに誤った判断で処置したことで大きな食中毒事件になったことがあります。
「何故そうするのか」を理解させることも大事な教育なのです。

変化点を管理する
一般的に作業標準には、使用材料、部品や設備、治具、作業の手順と作業を担当する人が持つべき資格などが記載されています。
品質トラブルを発生させないように、標準と変化があった項目は管理しましょう。変化があった場合、皆が意識するように管理板を使って“見える化”します。例えば交代要員が加わったときは管理板の図にチェックし、口頭でもチーム全員に注意喚起します。設備修理の直後や材料メーカーが変わった場合は、初回の製品を検査したり、抜き取り数を増やしたりします。このように厳しく変化点を管理することが重要です。

数字や映像で分かる標準に
マニュアルの中に「製品を○○治具を使って、力を込めて押す」という一項があった場合、これではどの程度の力か全く理解できません。担当する経験豊かな従業員が退社すると、誰も教えられなくなってしまいます。
こうした項目はできる限り数字化します。体重計やバネばかり等を使って、作業時の力を繰り返し測定して数字で記録し、必要な力加減を日々の訓練によって伝承した例があります。これもひとつの標準化です。
文章だけの「標準」は止めて、絵や写真、動画を使って誰にでも理解されるようにしましょう。

見出しアイコン標準化に終わりなし

標準化は一度で終わるものではありません。標準化された作業を継続していくと、新たな問題点が見つかります。
標準化しているからこそ、問題点に気がつきます。気がつくことは、働く人たちの能力が上がった証拠です。気がついた問題点を、また皆で改善します。標準化の取り組みは生産性向上を行う活動と何ら変わりありません。
生産性向上と一緒に繰り返すことで、現場はスパイラルで進化します。繰り返すことで従業員の創意工夫を育みます。標準化は終わりなき活動なのです。

専門家紹介


石川 雅道さん画像

株式会社 石川改善技術研究所

代表取締役

石川 雅道

専門分野

□ ものづくり 生産管理(現場改善、在庫削減、ヒューマンエラー対策、設備改善など)

自己紹介

1951年秋田県生まれ。家電メーカーにてデバイス・半導体の生産ライン企画、設計、立ち上げなど行いながら、生産性向上を目的とした改善活動も担当。国内外の設備技術者にIEや安価で小型の設備である「からくり」教育を行う。2009年に創業し、ミラサポ専門家派遣者などモノづくり支援で現在に至る。
「グローバルよりローカルに」「集中より分散」と今時の流行に抗う考え方でものづくり現場を鼓舞するエンジニア。

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