経営企画・戦略立案
2019/12/23
中小企業の資金繰りを、大きく改善するためのコツとは
企業にとっての資金は、人の血液に例えられます。資金が循環しないと事業の継続性が維持できません。中小企業では銀行からの資金調達が容易ではないことから、経営者にとって資金繰りを安定させることは喫緊の課題です。
今回は、まず自社内で対応できる資金繰りの改善策について、経営支援のスペシャリストである株式会社彩代表の西川邦広氏がお答えします。
中小企業からのよくある質問
資金繰りがうまくいかず、日々苦労しているのですが、安定させるための良い方法があれば教えてほしいです。
この質問に回答する専門家
中小企業診断士
西川 邦広
東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業診断士。
目次
利益は出ているのに、なぜ資金繰りに余裕がないのか?
「事業計画に沿って売上は順調、利益だって出ているのに、どうして月末の支払いに汲々とするのか」こんな場面に遭遇していませんか。中小企業経営者が経営に邁進できるようになるには、資金繰りを安定化させることが重要です。
資金繰りって何ですか
資金繰りは、資金(現預金等)を収入と支出の点から管理し、収支の過不足が無いよう調整し、事業運営上必要な資金を確保し維持することが目的です。企業の生命線を握ります。
資金繰りが不安定になれば上場会社でも倒産の危機に陥ります。
「あんな大きな会社が」とか、「急成長でマスメディアを賑わせていた会社が」とか、安泰に見える企業でも資金繰りが安定しないと突如として市場から退散せざるを得なくなります。
利益=資金?
中小企業の経営者の多くが、決算数字の中でも損益計算書の売上そして各段階の利益に着目します。ここで「儲かっている」といっても、あくまで会計上の利益です。
利益は必ずしも資金が相応にあることを意味しません。会計上の利益と収支管理上の資金は合致していないことがあります。
どうしてそんな事態が生じるのか見ていきましょう。
資金管理ができているかチェック
売上増や利益増は中小企業の経営者にとって優先課題となっています。しかし、売上や利益が計上されていれば、金庫にお金が貯まっていくわけではありません。 「売上増≠利益増≠資金増」ということです。売上の結果である入金はいつでしょうか。中小企業の経営者はそこに目を向けないと資金繰りができません。これをしっかりと頭の中に入れておいてください。
資金が滞留していませんか?
月次の資産残高表で財政状況や業績推移(貸借対照表、損益計算書)を見てみましょう。以下のような症状が出ていませんか。
①粗利益が出ていない/営業利益が赤字となっている
②売掛債権が増えている
③商品の在庫が増えている
④仕掛品、材料等貯蔵品が増えている
⑤立替金が増えている
⑥最近使用していない設備・機器がある
⑦諸会費や雑費など使途不明な費用が増えている
こんな状態が続くと資金は滞り、いずれ資金繰りを不安定にします。
売上代金の回収はいつ?
売上がいつの時点で資金回収(入金)できるのか掴んでいますか? 現金商売でない以上、入金は遅れてやってきます。
例えば、売掛債権の金額が増えるということは、売上代金の未回収残高が増えているのです。これでは資金繰りが苦しくなります。
請求書の出し忘れは言わずもがな、請求書を送っただけで「良し」としてはいけません。請求書の送付はあくまで代金回収の起因に過ぎません。
在庫が積み上がっているのは順調な証拠?
売上が伸びるにつれ、仕掛品や在庫が増えることもあります。しかし、仕掛品の場合は製品化、製品在庫の場合は販売されない限り資金にはなりません。
いつでも注文に応じられるようにと、貴社の倉庫に山積みされた在庫は生産/販売計画に見合っていないかもしれません。
まずは入金と出金のタイミングを把握しよう
売上と入金との関係同様、仕入れと支払いの間にもズレがあります。一般的に企業の仕入れ・支払いは、現金決済ではなく買掛債務という形で仕入れから時間をおいて支払いが発生しています。
したがって入金と出金両者の間にある時間的ズレを管理していけば資金繰りの安定化に目途が立ちます。
資金循環を円滑に
ヒトは食べたものを血液にして生命を維持します。また血液が固まらないよう、円滑な流れを保ちます。企業の資金も同じように循環させなければいけません。
しかし、中小企業では、事業サイクル(仕入から着金確認まで)への見通しが不十分だったり、取引条件が不明確だったりして、資金繰りが不安定になっているケースがよくあります。
経営指標の活用
自社資金の循環サイクルを確認しましょう。仕入れから販売、そして代金回収といった一連の事業の流れを掴むことは、安定的な資金繰り計画の策定に有用です。
活用する代表的な指標は、よく耳にする運転資本に関するもので、売掛債権、棚卸資産、買掛債務を用います。
例えば、運転資本回転期間が何日なのかを知り資金準備をします。これがマイナスとなるように調整できれば、支払日が入金日よりあとに来るので、安定的な資金繰りが見込めます。運転資本回転期間の算出方法は以下のとおりです。
運転資本回転期間 = (売掛債権回転期間+棚卸資産回転期間)- 買掛債務回転期間
資金繰り安定化のコツ
資金繰りの安定化には、自社の資金循環サイクルの特徴を知り、入金の促進などを通じ資金管理をしていきます。以下に具体的な施策を示していきます。
資金繰り表作成
事業計画に沿って作成します。
各取引先の決済条件は契約書等で確実に確認してください。決して過去の慣行や口約束などに基づかないでください。各部門間でチェックし漏れなく、また想定外の支出を極力避けることが重要です。
資金繰り表は、経営者だけでなく、複数の担当者や部署間で共有します。
例えば、販売したら営業担当者は請求書を作成し、経理部が着金するまでフォローします。遅滞なく、漏れなく売上を資金化する過程を複数で管理する仕組みを作ります。
買掛債務の決済も同様です。事業計画を基に仕入時に条件などの確認を仕入担当者と共有し、資金繰り表を基に入金状況や手元資金残高を照らし合わせて前もって支払準備をしていきます。
初めて作成する場合は、3カ月程度の期間でもいいですが、先述の運転資本回転期間が短い場合は、月次あるいは週次計画が必要になります。
売掛債権の確実な現金化
販売後速やかに請求書を送り、着金確認を確実にしてください。取引先別の条件を確認し、いつ現金化されるのかを把握しましょう。
棚卸資産の早期現金化
販売計画を基に仕入のタイミングや適正在庫量を設定しましょう。勘ではなく、在庫計画が必要です。
資産や費用の見直し
事務所経費等固定費の見直しや、不稼働資産等の現金化も資金繰りを円滑にします。とりわけ固定資産の見直しは、金融費用の削減にも繋がります。
取引条件の交渉
売掛の場合なら、サイトの短期化や現金比率の拡大などが対象です。買掛では仕入先の変更も視野に入れます。相手がいることなので難易度は上りますが交渉は必要です。
資金を管理して資金繰りの安定化を図りましょう
自社内で足元からできる資金繰り対策をお伝えしてきました。
損益管理と共に資金管理をしましょう。自社の事業特性を知り、資金の循環特徴を捉えることが資金繰りの安定化には必要です。
自社の事業がどのように資金を産み出し、循環させているのかを把握できるようになれば、金融機関の理解も得られやすいです。また事業性評価による融資など、過度の担保依存ではない借入れという新たな調達手段も見えてきます。
専門家紹介
中小企業診断士
西川 邦広
専門分野
□ 事業計画(新規事業、創業、事業承継等)、資金調達、金融再生
□ 経営改善(課題発掘、行動計画作成とモニタリング)、組織活性化
□ M&A(買収、売却、廃業、事業連携等)
□ リスク管理、事業継続(BCP他)、内部管理体制
□ IPO(上場等)準備
自己紹介
東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後(原価管理、契約管理、労務、不動産開発等)、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業支援では建設/住宅設備/観光バス/外食/小売・卸/介護等企業の経営支援実績。中小企業診断士、宅地建物取引士、ロジスティクス管理士(物流)、CFP。資金調達や介護事業に関する執筆あり。東京都在住。
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