経営企画・戦略立案

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2019/11/18

中小企業のための失敗しない事業計画の作り方

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中小企業の経営者の方にとって事業計画の作成は頭痛の種のひとつです。融資の申し込み、補助金の申請など色んな場面で求められます。そもそも何を書けばいい、と考えあぐねている内に日々の業務の中で手がつかない。こんなことを繰り返していませんか。

今回は事業計画をつくり、計画に沿った経営をするポイントについて、経営支援のスペシャリストである株式会社彩代表の西川邦広氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

事業計画をつくりたいのですが、ちゃんとつくったことがなく、何から手を付けたらよいのかわかりません。 つくるためのステップやポイントを教えてほしいです。

この質問に回答する専門家

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中小企業診断士

西川 邦広

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業診断士。

目次

見出しアイコン事業計画に基づいた経営をしましょう

事業計画ってよく耳にしますよね。現実には、「計画なんてなくたって事業はできる」とおっしゃる経営者が多くいます。
でも思い出してください、例えば取引先訪問。訪問時刻を確かめ、出発の時間、経路を考えますよね。そして訪問目的も。ノープランで訪問することはないでしょう。

事業目的を明確にし、目標へ到達するための道筋を示したものが事業計画です。
中小企業の経営者の多くは日々の業務に専念され、3年、5年先の事業の姿どころか現状把握さえ難しいと感じられています。しかし事業環境が急速に変わる今、場当たり的な経営では行き詰る可能性があります。ここで一度立ち止まって将来の道筋を見据えましょう。

事業計画のない経営はデメリットだらけ!
目標に達する道筋が見えなければ、歩(ほ)を踏み出す方向さえ考えあぐねてしまいます。経営者が迷っていると従業員や取引先が不安になってしまうでしょう。
実際、“中長期事業計画を策定している企業の方が、策定していない企業よりも、収益力が高い傾向にある”、という報告があります(中小企業白書2016年版第2部 第6章)。

ほかにも、もし事業計画がなかったら借入申込の時に、金融機関からの「資金をどう使い、借入金をどう弁済する計画なのか」という問いに答えられるでしょうか? 求職者から「どういう会社ですか?」と問われて夢を与える説明をできるでしょうか?

そもそも事業計画とは何か?
事業計画は、経営者にとって羅針盤となるものです。経営理念や事業目的を明文化し、進むべき方向へ着実に歩む道筋を会社内外に示す約束事といってもいいでしょう。
また、経営者が困難な事態に直面した時の拠り所、従業員と事業目標を共有し一丸となるもの、取引先に理解を得、協力を求めるものです。
金融機関へ借入返済計画を説得するためという役割もあります。

混同されるものに「経営計画」がありますが、これは複数の事業を包含した会社全体の運営方法の指針で、中期経営計画が代表例です。ただ中小企業では単一事業であることも多く、事業計画と同義なこともあります。

見出しアイコンつくった事業計画がうまくいかないワケ

必要性は分かっても事業計画をうまく書けない。説明しても理解してもらえない。金融機関から何度も作り直しを求められてしまう。多くの経営者が同じような経験をされています。 ここでは中小企業経営者が陥る失敗のポイントを確認しましょう。

こんな事業計画にしていませんか?
以下のような事業計画では理解も共感を得られません。

①事業環境への見通しがない(そもそも市場があるのか、生き残れるのか)
②自社の事業のプロセスが不明確(どのように売上を計上し、利益をだしているのか)
③事業の目的があいまい(何をしようとしているのか)
④行動計画がない/あいまい(どうやって実行するのか、本当にできるのか)
⑤数値目標に根拠がない(どういう結果になるのか、本気でやるのか)  など
こうした事業計画では読まれませんし、不信感さえ持たれてしまう可能性があります。

残念な事業計画によくあるワード例
失敗例によく見られる表現を見てみましょう。あなたの会社の事業計画にも使われていませんか?

①今年は景気も回復、当社の事業も上昇見込...(抽象的で根拠がない計画)
②販売先である企業の業績が回復すれば...(熱意のない他人事のような計画)
③この技術が開発すれば、売上は急増...(いつ開発が終わるのか具体性がない計画)
④インバウンド需要で当社にも好影響を...(根拠がなく浮ついた計画)
⑤今後3年間で粗利益率を50%改善...(根拠のない数字が羅列された計画)
⑥最終利益率を毎年30%上げ、赤字体質を脱却...(実行可能ではない夢の計画) など

失敗例の多くが、独りよがり、他人事、具体性がない、ストーリーがない(論理的でない)内容になっています。

見出しアイコン事業計画に基づいた経営をするためのステップ

事業計画の位置づけがイメージできましたか?
ここからは作成する上で成否を握る点である、事業戦略、行動計画に焦点を当ててお伝えします。

事業計画書の組み立て
事業計画を作成する動機としては、創業、借入、新規事業、事業承継など様々な場面があります。事業計画に決まった書式はありません。以下にひとつの例を示します。

  1. 会社の概要
  2. 事業理念・目的
  3. 事業内容
    • 事業戦略
    • 自社のサービスや商品の特長
    • 環境分析
  4. 生産・販売・仕入計画
  5. 実施体制・人員計画
  6. 投資計画
  7. 資金調達計画
  8. 損益計画(数値目標)
  9. 課題・行動計画

自社の事業戦略を明確にしよう
上記の項目は、会社が置かれる状況や場面によって力点を置く項目が変化します。しかし一般的に重要な項目は、「事業理念・目的」、「事業戦略」、「行動計画」です。 「事業理念・目的」は経営者が抱く事業への思いです。「世の人すべてを自社のサービスで幸せに」など、こうしたい、こんなことをやっていきたいという「思い」です。抽象的なイメージでも良いです。

「事業戦略」は経営者の意志を実現していく筋道を示します。事業戦略は羅針盤であり、すべての意思決定、事業活動の源になり、経営者の決意の程度が表現されます。
行動計画は、事業計画を実現可能なものとするため、誰が、何を、いつ(までに)やるのかを約束するものです。

事業戦略をどう設定するか
事業戦略を立てるには、自社の活用可能な経営資源の確認(棚卸し)、自社の参入可能性、規模、成長力などについて市場を見通し、事業の方向を明確にしましょう。
まずは自社内外の事業環境を分析します。例えば、代表的なSWOT分析を用い、自社の立ち位置を把握します。その上で自社が取組める、また勝ち残っていける事業を確認し戦略を立てます。自社の強みを活かし、事業機会を捉えていくことが戦略となります。

実行できる計画、そして実施することが大事!
環境分析を経て事業戦略を決めたら、それを実施していくための事業活動計画(生産、営業、投資、資金調達など、上述“事業計画書の組み立て”参照)を立て、数値目標である収支計画をつくります。
これで事業計画は終わりません。当然実行です。事業計画を実現可能なものとする行動計画をつくります。

前述の環境分析の結果と現状を比較し、目的達成に必要な経営資源を揃えられるか、また差別化をどのようにしていくのか、といった目的達成におけるハードルへの具体的で実際的な解決策を行動計画に示します。誰が、何を、いつ(までに)やるのかを約束するのです。 現実には多くのハードルを目の当たりにします。重要度、緊急度で優先順位をつけ、絞り込む判断も重要です。

また、計画実施段階では円滑に進捗させるため不可欠なのが「実施状況のモニタリング」です。計画も的確に実行されなければ画餅に帰すでしょう。

事業計画を活用しよう
事業計画には以下のような大事な役割があります。
①全社一丸となって進む羅針盤となる。
②経営者が自社のことを把握する。
③取引先へ事業への理解を求め協力関係を作る。
④金融機関には融資申込み時の説明資料とする。
⑤経営者が選択を迫られた際に拠り所となる。

さらに最近、金融機関が融資判断に当たって、担保や保証、そして財務内容を重視する姿勢から中小企業の経営者の質、将来性、他社との優位性などに基づく「事業性評価」を利用し始めました。
事業計画は、事業性を評価する重要な資料になります。そういう意味でも事業計画は中小企業の自律的な経営に必須となっています。

見出しアイコン中小企業が事業計画をつくるためのポイント

事業計画は目的達成への道筋を示すものです。したがって、現実的で具体的であり、何より明日から実行可能である計画であることが肝要です。いくら関係者を説得できても実行できなければ意味がありません。言うまでもなく経営者が自らの言葉で熱く語り実行していく事業計画でなければなりません。

最後に、留意点をひとつお伝えします。事業環境は変化します。事業環境に沿わなくなった事業計画は見直すべきで、むしろこだわってはいけません。
事業計画を作成したうえで使いこなし、売上増、利益増を目指しましょう。

専門家紹介


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中小企業診断士

西川 邦広

専門分野

□ 事業計画(新規事業、創業、事業承継等)、資金調達、金融再生

□ 経営改善(課題発掘、行動計画作成とモニタリング)、組織活性化

□ M&A(買収、売却、廃業、事業連携等)

□ リスク管理、事業継続(BCP他)、内部管理体制

□ IPO(上場等)準備

自己紹介

東京外国語大学卒業。ゼネコン勤務後(原価管理、契約管理、労務、不動産開発等)、証券会社で海外駐在を含む31年間に、経営企画、企業再生、リスク/内部管理、介護施設運営他に関与。財閥系ゼネコンの社外取締役歴任。中小企業支援では建設/住宅設備/観光バス/外食/小売・卸/介護等企業の経営支援実績。中小企業診断士、宅地建物取引士、ロジスティクス管理士(物流)、CFP。資金調達や介護事業に関する執筆あり。東京都在住。

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