人材定着
2020/3/11
社員のエンゲージメントを高めて中小企業も成長を促進!
春闘の季節ですね。かつては、経営側と労働組合が賃上げ交渉の場につきストライキ権という宝刀を武器に少しでも多くの配分を勝ち取ろうとしていた風景も、もう遠い昔のものになってしまったようです。
今回は、このような労使の戦いではなく、「エンゲージメント」という、社員は会社に愛着を寄せ、会社は社員に何かしらの支援を行い、共に成長していくという施策について、人事労務のスペシャリストである株式会社アンカーJの代表取締役千葉峰広氏が解説します。
中小企業からのよくある質問
最近、よく聞かれる「エンゲージメント」ですが、社員のモチベーションのためにも、エンゲージメントを高める施策を検討したいと思っています。エンゲージメントとは具体的にどういうものなのでしょうか?
この質問に回答する専門家
株式会社 アンカーJ
代表取締役
千葉 峰広
成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。
目次
社員満足度調査とエンゲージサーベイ
社員満足度調査とエンゲージサーベイ(エンゲージメントサーベイ)は似ているようで異なるものです。 何故会社がこのようなことをするのかというと、目的は共通していて、この調査のスコアが高いということは、社員のモチベーションも高く、組織が活性化されており、自ずと会社業績も高くなる法則に基づくことから行われます。 まずは両者の違いを見ていきたいと思います。社員満足度調査
日本では2000年ごろから認知され始め、労務行政研究所の調査によると2018年には大手企業の約3割が定期的に実施しているようです。CS(顧客満足)はES(社員満足)と両輪の関係であると位置づけ、ESを高めることで自社のCSも高まるという考え方です。調査項目は、会社が提供する報酬、待遇、環境などに対して満足か、不満かを問いスコア化していきます。
エンゲージサーベイ
一方、最近注目されているエンゲージサーベイとは、会社と社員の信頼や貢献度合いを愛着心や思い入れの深さ等からスコア化していきます。企業と従業員が双方向の関与によって結びつきを強めていく点が社員満足度調査と大きく異なっています。 また、こちらのスコアの方が会社業績とより強い相関関係がありそうだと考えられています。
エンゲージメントを高めるためには
エンゲージメントが高い職場とは、環境や労働条件に満足しているだけでなく、従業員が仕事に意欲を持ってやりがいを感じていることです。具体的には、社員が企業の成長に向けて意欲を持ち、何とかしようという心構えや能動的な関わりが見られる場合にエンゲージメントが高いといえます。社長と社員の価値観は全くの別物
会社という組織において、わかっているようでわかっていないのが、「そもそも中小企業の社長と社員は全く別の価値観を持っている」ということです。 社長にとっては仕事が命でも、社員にとっては生活が第一かもしれません。ですから、社長は社員に対し、社員は社長に対し、「なんでわかってもらえないのだ!」とすれ違いが生じてしまうわけです。このギャップは簡単には埋めがたいものがあります。
企業理念とエンゲージメント
企業理念は、その会社の存在意義や、夢が実現する姿をステークホルダーに語りかけるものです。この企業理念だけで社員とのエンゲージメントが高まる場合もありますが、やはり社員は“自分への見返り”があってはじめてエンゲージメントを高めていくというのが自然な姿でしょう。 では“見返り”とはなんでしょうか? それは、「お金」という報酬も否定しませんが、それ以外にも「働く目的」や「働く喜び」がとても大切なのではないでしょうか?
エンゲージメントを高めるポイント
エンゲージメントを高めるには、個人の仕事の志向性に沿った環境や機会の提供を行い、多様性や価値観を共有・評価し、自分たちが何をしたいのか、どうなりたいのかを対話することが重要です。 具体的には、①ビジョンの共感、②やりがいの創出(挑戦する企業風土や適材適所の推進)、③成長支援(スキルアップ、キャリア形成)等の観点が必要となってきます。
「私はこの仕事が、この会社が好き!」の力
エンゲージメントにかかわる実話をひとつ紹介したいと思います。 その会社は、酪農家が出資した社員30名ほどの牛乳製造を行う農業法人です。マネジメントが上手くいっておらず社員の定着率が悪く、私が雇用労務支援をしました。 現状分析として社員満足度のアンケート調査と面談を行ったのですが、その際、非常に感動させられる経験をしました。満足度アンケート調査
経営者からは、「定着率が悪い真因を探り対応策を提案してほしい」と言われていました。そこで、より本音を聞き出すために、アンケートは氏名の記入を任意とし、会社を経由せず直接私の事務所に届くような仕組みとしました。 調査カテゴリーは、①仕事満足度 ②会社方針共感 ③給与・待遇 ④休暇・労働時間で15問の項目でした。
意外な結果
上記のような調査方法でしたので、経営者も私も相当な会社批判やネガティブ意見が出てくることを想定していました。もちろん批判、ネガティブ意見はそれ相応にありましたが、意外だったのは「自分にはこの仕事が合っていると思うか」という質問に半数以上が「そう思う」と回答していることでした。
感動させられた面談
30代の女性社員との面談で、仕事の満足度について話している時のことです。その女性社員はこんなことを話してくれました。 「私は、この仕事とこの会社が好きです。何故なら小学生の娘が、給食で出されるお母さんの会社の牛乳はとてもおいしい、と言ってくれるからです」 彼女は「だから、職場の空気が重いなか、会社を良くしたいために1人で改善活動に励んでいる」とのことでした。この女性社員の気持ちこそ、これまでお話ししてきたエンゲージメントを総括していると思います。
あらためてエンゲージメントとは
「この仕事が、この会社が好き」という力はお金で買うことはできないし、会社にとって物凄い力になることは言うまでもありません。このような会社と社員の信頼関係をこつこつ1人ひとり築いていくことがエンゲージメントを高めるポイントです。会社側・社員側のどちらかが一方的にやるものではなく双方が互いに出し合っていくことが大切です。
専門家紹介
株式会社 アンカーJ
代表取締役
千葉 峰広
専門分野
□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用
□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)
□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)
□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)
自己紹介
成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住
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