人事・労務管理

人事制度

2020/3/9

中小企業が悩むIT人材不足を解消する“辞めさせない人事制度”

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中小のIT企業における人事の最大の悩みは、他業種より人材の流動が激しいことと定着率の低さではないでしょうか? 今回はこの問題に対してどう取り組んでいくべきかについて、IT/技術コンサルタント エムアンドシー企画 代表の近藤茂雄氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

せっかく育てたエンジニアが、一人前になると賞与後のタイミングで辞めてしまい、慢性的な人手不足で悩んでいます。エンジニアに長く働いてもらうためには、どうすればよいのでしょうか?

この質問に回答する専門家

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近藤茂雄

KDDI、モトローラ、日立製作所などでシステム開発、SE事業、プロジェクトマネージメント関連の業務に従事。現在は複数の中小企業で、人事や会社体制のサポート支援を行っている。

目次

見出しアイコン会社人事の健康診断(見直し)をしていますか?

経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると「2030年までに41万から79万人のIT人材が不足する」と予測されています。
「日本のIT人材は際立って転職経験が少ない」というデータもありますが、今後、IT人材の流動化が他国並みになることも視野に入れ、対策を検討することが重要です。

構造改革の必要性!
IT人材の不足に伴い、中小企業は総合的な人事戦略(新規採用、中途採用、更に教育システムの充実、給与制度、能力給)が必須となっています。今までの人事で、この先を乗り切れるか、考えてみましょう。
多くの企業は今のままではうまくいかなくなってきています。人事の課題に、正面から向き合い、それを克服することが人材問題対処への最初の一歩となると、筆者は考えています。

効果的なPDCAを回そう
人事対策では、自社社員の分析、課題の抽出を行う必要があります。
今後の人事戦略と計画を作成して、採用のプロの育成、社員の育成を進めていきましょう。
社員に生きがいを感じてもらうためにも、多角的に会社をチェックすることが必要です。
それにはコンサル・専門家をうまく活用する(利用する)という選択もあります。ただし、その際は丸投げするのでなく、自社の総務・人事がそのノウハウを習得できるように一緒になって実施することをお勧めします。

見出しアイコン社員の転職を防ぐ人事制度の第一歩

IT人材の、転職傾向は顕著ですが、実は先の経産省の調査によると「32.3%のIT人材は、できる限り転職したくない。(絶対したくない5.6%を含む)」というデータもあります。
実際、筆者が社員に話を聞くと、ほとんどが「転職したくない」と言っていました。 それでも転職に踏み切るのは、SES(システムエンジニアリングサービス)で外に出ている社員が、“隣の芝生が青く見える”結果です。

自社の強みをうまく使って転職を予防する
転職希望者のなかには、「面倒見が良くて、働くのが楽しそうだから、貴社に転職したい」というケースが珍しくありません。中小企業のIT人材は、SESで仕事をしていることが多いので、どうしても「隣の芝生は青い」となりがちです。
社員の転職を防止するには「中小企業ならではのアットホーム」な部分を前面に出すことも有効な手段のひとつ。ITというドライな世界では、人間らしさを求めるのです。私の経験では、特に文系からITに入ってきた社員にこの傾向が強いようです。

社員の気持ちに耳を傾けていますか?
社員とのヒアリングを、役員や人事が定期的に実施していますか?
「忙しい」とか「若手と何を話して良いのか?」と考えていませんか?
社員の不満を収集することが実は大変重要です。不満を話すだけで、その不満が一気に解消することもよくあります。また、いわゆるイエスマンのような中間管理職も、一緒に浮き彫りにできます。

社員に関心を持ちましょう!
社員の経済状況の変化をチェックしていますか?
ポイントは、結婚や出産による家族の増加などです。
それまでは、「楽しくて面倒見の良い会社だ」と満足していた社員も、「今後の生活を考えるとこの昇給率で良いのか?」と考えるのは当然のことです。
多くは、このタイミングで転職を考えます。その時、「給料100万円アップできますよ!」と言われたら、引き止めるのは非常に厳しくなります。
転職しようという気にさせないためにも、社員の経済状況と家族の変化を察知して、対処することが重要です。

見出しアイコン退職を防止する具体策

退職防止には構造改革が重要です。
数年前までは、社員を請負・派遣で他社に出して社員の面倒を見ず、「彼は元気かなぁ」ということもありました。現在、このようなことをしていれば、その社員は間違いなく転職予備軍です。
会社が、いかにお金を掛けずアットホームで良い環境と給与面でのメリハリのある制度を提供するかが、重要なポイントになります。

非常に重要な帰社日!
帰社日について尋ねると、「毎日顧客のところで遅くまで仕事をして疲れているなか、周知のために帰社させるなんて非効率。社員の事考えて、なるべく最低限にしている」という会社も結構あります。
しかし、本当に社員のことを考えているのでしょうか?
実際に筆者が社員から聞いたのは、「周知すら最低限で、会社に戻るチャンスもない。もう自社には期待していない。他社はいいなぁ!」という声です。
帰社日は周知とか、最低限のトレーニングだけに使うのではなく、会社の一体感を持たせる場として活用することが、退職防止になります。

見逃せない営業の役割
IT、特にSES系の営業の仕事は幅広いもの。しかし、そのなかでも大切なのは社員のフォローです。
営業から、「他社からウチへ来ないかって言われちゃった」といった引き抜き情報や、会社への不満等が収集できます。中小企業はこの大事な情報チャネルを確実に稼働させることが重要です。

身近になったトレーニング制度
社員教育が重要なことは間違いありません。とはいえお金も時間もなく、「そんなのは絵空事だ」という中小企業も多いでしょう。
しかし最近では、eラーニングによって、時間に縛られず好きなだけトレーニングできるシステムが、無料・安価で提供されています。所属しているIT業界団体、銀行系、役所系でいろいろなトレーニングが提供されています。
中小企業の社員と話すと、「会社でのトレーニングといえば、セキュリティ関連くらいで、ソフトとか、管理者としてのトレーニングは全くない」ということをよく聞きます。こうした状況を改善し、社員の満足度を上げることが、退職率を抑えることになるでしょう。

能力給制度の導入
中小企業では、年齢給や職能給などの仕組みが多いですが、これからは大手よりも大胆に能力給を取り入れるべきです。
頑張った人には、相応の成果を与えることが重要です。
「能力給は不平等」と考える経営者もいますが、給料を平等にすることで逆に不平等が生じているケースもあります。
例えば新人10名のうち、5年以内に成績が上位の7名はいなくなり、下位の3名が残る、というのは珍しくありません。これは、優秀な人材ほど「なぜ遅刻ばかりで、自己研鑽もしない奴と一生懸命仕事している俺が同じ給与なんだ。不平等だ!」と考え、辞めていってしまうからです。
能力給は、実績が給与に反映される制度です。「頑張れば誰でも給料が増える」という公平な制度といえます。優秀な人材はますます頑張り、辞めない仕組みではないでしょうか。
能力給という制度については、いろいろな会社で導入をサポートしてきた専門家も多いので、彼らをうまく使うのも良いかもしれません。

会社イベントの重要性
懇親会や、各種レジャー系イベントなど、会社の外での活動を支援することも重要です。イベントを通して人間関係を強化することが、転職、退職予防にもなります。 その時、イベント企画の担当者の決定は重要なポイントです。
仕事は少し評価が低いものの、こういう“祭りごと”だとすごく頑張る社員が多いのも中小企業の特徴です。社員の中から実施するイベントに適任なキーバーソンを見つけ、うまく活用しましょう。会社の雰囲気を一気に盛り上げてくれます。
まずは小さな歯車を回し、それをどんどん大きくして、会社全体の歯車を展開し、アットホームで何でも話せる楽しい会社を目指してください。

見出しアイコン自社の良いところの見える化がポイント

本記事でご紹介したことは経営者、総務、人事、営業などのメンバーで「会社を楽しく、活性化する方法を考えてみよう!」といった形からでも十分実現できます。
社員に慕われる会社にするためにも、中小企業の特徴であるアットホームな雰囲気、チャレンジ精神で、会社をブラッシュアップすることが一番の退職対策です。
また社内で解決できない場合、外部の専門家もたくさんいるので、一緒に進めることが成功への近道となります。
ただ、専門家なら誰でもいいわけではありません。やはり専門家の知識も重要ですが、社長の考えや会社の雰囲気に合うかといった、会社と相性の良い専門家を選択することも重要です。

専門家紹介


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近藤茂雄

自己紹介

通信会社のKDDI、米国通信メーカーのモトローラ、その後は、日立製作所とシステム開発、SE事業、プロジェクトマネージメント関連の業務を従事しております。また、同期間、大学にて情報通信工学特論、電波法の講義を14年間非常勤講師として実施してきております。 その後、ソフトハウス(複数の中小企業)において、要員対策をベースとした構造改革、人事制度の計画、立案、推進を実施し、これに合わせて、会社を伸ばすための採用計画、退職防止策の立案、推進と支援を一緒に実施してきました。  基本モットーは、現場と一緒になった活きた改革を目指すコンサル、会社の体制強化を実現し、信頼と実績のコンサルを推進しております。

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