人事制度
2020/1/23
中小企業を悩ます問題の多い社員。賢い対処法とは?
「また朝から、課長とB君の言い争いが始まってる…」どんな規模の企業にもこのような光景は見受けられます。これでは職場自体が沈痛な雰囲気になってしまいます。とりわけ中小企業の場合、管理職や総務担当が問題社員への対処法を心得ておらず、法律事務所に相談する人脈や資金もないことから、大きな問題となることも多々あります。
今回は問題の多い社員に対する賢い対処法について、人事労務のスペシャリストである株式会社アンカーJ代表取締役千葉峰広氏がお答えします。
中小企業からのよくある質問
期待外れで問題の多い社員。どうすればトラブルにならずに辞めてもらえるか教えてください。
この質問に回答する専門家

株式会社 アンカーJ
代表取締役
千葉 峰広
成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。
目次
問題社員とはどんな社員?
問題社員のタイプ
問題社員は、大きく2つのタイプに分けることができると思います。ひとつは、いわゆる能力不足社員です。仕事に対する関心は低く、自分で調べたり考えたりする発想も乏しい。そしてすぐに「どうしたらいいか」と質問を多発し、常に指示待ちです。加えて自己成長のための勉強もしないため、このようなビジネスパーソンには、最早やってもらう仕事がないのが現状でしょう。 もうひとつは、能力は充分保有しているが、上司や周りの人とのコミュニケーション能力等が著しく低いため、常に職場トラブルを起こしてしまうビジネスパーソンです。
トラブルが起こる場面
トラブルは、仕事を依頼、指示した時から始まります。能力不足社員は、ホウレンソウもできていないことが多いので、こちらから1日に何回も進捗確認をしながら、仕事が止まっている原因を除去してあげないと、仕事の質と納期を担保することは難しいでしょう。
コミュニケーション能力等に問題がある社員は、自分ファーストが強い傾向にあります。従って、仕事の依頼や指示の際、「何故私がやらなければならないのか?」といったトラブルから始まることも多いことでしょう。
どうして、問題社員となってしまうのか?
信頼関係が失われた職場
プレイングマネージャー業務だけで手一杯で、部下の育成指導研修の受講経験もなく、またその時間の確保もできていないのが、中小企業の管理職の実情です。このような職場環境の中、お互いに信頼感のある上司部下の関係性を築いていくには、相当な努力が必要でしょう。しかしそれが築かれなければ、ハラスメントを恐れて何も言わない上司と指示待ち部下の関係から、容易に問題社員化してしまいます。
評価制度の形骸化
評価制度の本来の目的は、組織目標実現のため人的資源の価値をあげることです。また 人材の価値を向上させることが、評価者の「義務」なのです。ところが評価作業の実態は、部下を格付けするに終始し、信頼関係も薄いことから無難にオール3の評価を付けてしまうシーンが多々見受けられます。ここにも問題社員を生み出してしまう原因があります。
人事権の濫用と判断されないためにやることとは
しかしながら周知のとおり、我が国の労働法では労働者が強く保護されているという実情があり、解雇・懲戒が人事権の濫用と判断されてしまうことが多々あるので注意が必要です。 ここでは、人事権の濫用と判断されない施策をご紹介します。
口頭指導と改善指導書の発行
口頭指導は、その場で指導でき、指導された社員の心情を傷つける度合いも少ないなど、メリットがない訳ではありません。ただ、文書による改善指導書のほうがより複雑・広汎な内容について指導ができることや、後に裁判となった時の証拠となること、また、指導される社員の意識付けにもなるなど、より多くのメリットがあります。実務的には問題行為が初期・軽微なうちは口頭指導を行い、それでも改善がない場合は改善指導書に切り替えるのが適切かと思います。
改善指導書の作成ポイント、タイミング
問題社員の問題行動の具体的内容(5W1H)につき、正確に調査確認の上、簡明に記載しておきましょう。私情を入れない正確な事実記載がポイントです。 指導は、問題行為がなされてから時機を失することなく行うことが重要です。タイミングを逸すると効果が希薄化することを心得ておきましょう。
能力不足や問題行動が顕在化した場合の対処法
そして、熱意をもって必要な指導教育を行い、それでも改善が見込まれない場合は最終段階の判断をすることになります。
能力不足・問題行動程度の把握
繰り返しになりますが、能力不足や問題行動を記録する際には、客観的事実を5W1Hの形で時系列に沿って残すことが重要です。また、人事考課と同様に客観性の高い評価を行いましょう。例えば、やる気がない、意欲がない、自己中心的等の陳述は抽象的で証拠としての記録にはなりません。
速やかな指導等の実地
現行職務との関係で十分な能力を有してないと考えられる場合、使用者として必要な指導教育をすることが急務です。これにより能力の向上が見られたり、問題行動が改善されれば将来的解雇も未然に予防され、一番望ましい解決策となります。解雇ありきで事を進めるのではなく、会社はここに最も熱意をもって対応してもらいたいと私は考えます。
なお、指導や再教育には回数の上限を設けておくことが望ましいと思います。同一事象の指導回数や再教育の場合は、課題提出対するフィ-ドバック等を行なった上で、最終版の課題を提出させる等の判断基準を予め本人にも伝えておくのが望ましいでしょう。
十分な改善が見込まれない場合
このようなプロセスを経ても十分な改善が見込まれない場合には、配転や降格といった人事異動によって対応するか、普通解雇に踏み切るかの対応を求められることとなります。 まずは退職勧奨を提示し、それなりの条件を伝えることから始めていきましょう。
問題社員の対処法よりも予防策
前述したように、信頼関係が希薄となっている職場から問題社員が生まれ、それが顕在化し、会社運営に悪影響を及ぼすことはどこの会社でも起き得ることです。もし起きてしまったなら、賢い対処法で対応すべきですが、場合によっては行政の労働審判や訴訟等多大な労力と金銭を費やすことになります。
問題社員への賢い対処法を身に付けることも大事ですが、このような事案が生じたら、会社が重篤な病気になるサインと受け止めましょう。本人の問題として片づけてしまう前に、職場の信頼関係、育成、評価制度等の見直をして予防策を講じることをお勧めします。
専門家紹介

株式会社 アンカーJ
代表取締役
千葉 峰広
専門分野
□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用
□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)
□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)
□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)
自己紹介
成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住
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