情報化・IT活用
2020/3/11
革新的な業務分析手法でRPAの導入を成功に導く戦略的アプローチ
現場まかせのRPA導入では個別作業の省力化にとどまりがちです。費用対効果の面からも、会社の競争力UP(全体最適)につながるRPA導入が望まれます。そこで、中小企業がすきま時間でもできる業務分析の方法と、それに基づく戦略的アプローチについて、複雑な業務手順の可視化・改善の専門家であるプロセス設計塾・代表 西本明弘氏が具体的に紹介します。
中小企業からのよくある質問
RPAの導入を考えていますが、期待したほどの効果が見えないとの声も耳にします、失敗しないためには何が必要なのかを教えて下さい。
この質問に回答する専門家
プロセス設計塾
代表
西本 明弘
小型トラック、プリンターの設計・開発20数年の後、3次元CAD導入コンサルとして設計手順(複雑な暗黙知)の可視化に従事。これを契機に、個人やチームの複雑な業務プロセスの最適化・技術伝承を支援している。
目次
現場まかせのRPA導入の弊害と対策
RPA(Robotic Process Automation)とは、様々なデータソースを参照しながら行う定型的パソコン作業を自動化するソフトウェアロボットです。「プログラミング知識不要」を謳うRPAもあり、現場主導でも導入可能です。ただしその場合、個々の作業は省力化されても、会社としての業務スピードが上がるとは限りません。RPAには開発費も保守工数もかかるので、費用対効果の面から戦略的(全体最適)アプローチを推奨します。
場当たり的にRPAを導入した際の弊害と対策から見てみましょう。
類似ロボットを作りかねない
現場ごとにRPA導入を進めると、経理、総務、人事などで似たようなメール配信ロボットを開発、などとなりかねません。業務プロセス全体を俯瞰し、どこでどんなロボットが必要なのか把握できれば、重複する機能を共通部品として開発するなどコストが節約できます。
会社の競争力UP(全体最適)になるとは限らない
見積もり回答のための書類作成がロボットで省力化されても、社内承認プロセスに問題があれば、お客様への回答期間は短縮されません。業務プロセスを分析し、手順やルールを変えるだけで会社の業務スピードが上がればこれに越した事はありません。
戦略的ロボット運用には業務プロセスの俯瞰が必須
「ロボット達の仕様をどうするか」「どう配置するか」「どう改修するか」など戦略的に運用するには、業務プロセス構造を可視化・分析する事が必要です。 とは言っても、実務をこなしながら進めることや、どうまとめるかなどハードルもあります。ここでは従来行われている業務の可視化・分析方法を見てみましょう。ITコンサルタントに支援してもらう
RPAベンダーのITコンサルタントに依頼するケースです。しかし、彼らは御社の業務を知っている訳ではないので、社員はヒアリングや検討セッションで時間を取られます(上図参照)。そして、コンサルがまとめる数百ページの(高価な)資料の多くは、IT業界独特の書式(UMLなど)で書かれます。その資料を担当社員が理解できるのか、たとえ理解できたとしても、数年後に別の社員が理解し保守できるか分かりません。
プロセスマイニングの登場
前記のような人間が泥臭くやる業務分析は余りに効率が悪い(費用がかかる)という事で、プロセスマイニングが登場しました。ITシステム上のイベントログを自動取得して、業務プロセスの実態を自動で可視化するToolです。しかし、業務のシステム化が十分進んでいる事が前提ですし、Tool運用のコスト面からも大企業向けです。
第3の業務プロセス可視化・分析手法
業務の可視化・分析は重要ですが難題です。そこで、前出とは異なる第3の手法を次節で具体的にご紹介します。この手法で、図のような異なる部署間のTask連携を効率的に可視化・分析します。その上で、RPA化するTask選定と優先順位、既存ITシステムとの連携などを検討します。なお、本手法の基本的な事は、前記事『属人化した業務知識・手順の可視化・伝承とIT導入』で説明していますので併せてご一読下さい。本記事は、前記事の応用編となります。戦略課題からスタートする業務分析の6つのステップ
業務プロセスを記述するIPO(Input、Process、Output)シートの具体的イメージ図を示します。まず、IPOで表現したプロセス短冊をエクセルで地道に集めます。順序は問いませんので、思いついた時にすきま時間で可能です。ベテランの負荷を減らすために、新人がヒアリングしてまとめるのも良いでしょう。なお、Processの所がデータを供給するシステム名などでも構いません。Task連携図のデータストアに相当します。ステップ0.戦略課題を設定
前記事にこのステップが加わります。RPA導入で会社の業務スピード向上を狙うなら、戦略課題が必要です。例えば、納期回答期間短縮や決算書作成期間短縮など。これで、分析すべき業務範囲が定まります。業務分析自体が難題なので、選択と集中が必要です。
ステップ1.Taskやデータストアを表出
戦略課題に関係する各部署のTaskやデータストアを洗い出します。
ステップ2.Outputデータ名を決める
各TaskのOutputデータ名を決めます。Outputが数十もあるようならTaskが大き過ぎるので、5個くらいに収まるよう分解します。普通、Task名と主要なOutputデータ名が同じになります。(データストアのOutput数に制限はありません)
ステップ3.必要なInputデータ名を拾ってIPO完成
TaskとOutputデータ名が出揃ったら、各Taskを実行するのに必要なInputをOutputデータ名一覧から拾います。欲しいデータがない場合は、推定出所を付記してInputデータに追加します。
ステップ4.Task実行のノウハウを付記
InputとOutputが決まれば、何をするTaskかが定義されるため、実行のノウハウや注意点を付記すれば業務手順書の素材となります。
ステップ5.授受されるデータ名でTaskを繋いで流れ(手順)を可視化
各TaskをデータのOut/In関係で繋ぐと、Task手順とデータの流れが見えてきます。多部署連係は複雑ですが、DSM(Design Structure Matrix)という手法を用いると可視化・分析が容易です。これで、戦略的ロボット運用のための準備が整います。なお、DSMの原理図は前記事を参照ください。参考書籍は『デザイン・ストラクチャー・マトリクス:慶応義塾大学出版会』および『デザイン科学事典:日本デザイン学会』内の設計構造マトリックスがあります。
IPOシートにTask時間も記入すればガントチャートが描けます。これでクリティカルパスが把握でき、RPA化の優先順位や人員配置の適正化も検討できます。また、DSMで最適手順に並べ直したIPOシートは業務手順書となり、教育資料に使えます。そして、なにより有用なのは整備した情報が誰でも理解可能で、変更も容易という事です。変更は、プロセス短冊を修正するか差し替えるだけです。従来手法でまとめた資料ではこうはいきません。
”餅は餅屋” 専門家を活用しよう
失敗しないRPA導入には、戦略課題を1つこなしてみて、その経験を順次横展開する事を推奨します。なお、今回ご紹介した分析手法(i-DSMと呼称)を実施するにはDSMの知識が必要です。しかし、わざわざ勉強して使うよりも専門家の知識を活用するのが効率的でしょう。BigData分析にデータサイエンシストを活用するのと同様です。”餅は餅屋”の例え通り、IPOシートという自家米(Data)を餅屋(DSM専門家)に預ければ、美味しい餅(プロセス分析3点セット=DSM、ガントチャート、業務手順IPO)がつきあがります。ご興味あれば、いつでもお問い合わせください。
専門家紹介
プロセス設計塾
代表
西本 明弘
専門分野
□ 機械設計・開発
□ プロジェクトマネジメント
□ Design Structure Matrix手法による、複雑な業務プロセスの可視化・最適化
□ Analytic Hierarchy Process手法による、製品仕様の最適化
自己紹介
三菱自動車、IBMにて小型トラック、プリンターの設計・開発20数年の後、3次元CAD導入コンサルとして設計手順(複雑な暗黙知)の可視化に従事。これを契機に、複雑な情報連携プロセスの最適化・技術伝承をつうじてプロジェクト収益性の改善を支援している。支援においては、MITが主導しているDesign Structure Matrix手法を応用してお客様の負荷の最小化を図っている。この手法を2003年から自動車、エンジン、船舶などの設計・開発で活用しており、国内の草分けである。
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