法務
2020/1/23
中小企業でも考えるべき、CSRとSDGsへの対応
CSRやSDGs、最近よく目にする言葉ですが、横文字だし、企業の社会的責任とか持続可能な開発目標などと直訳で説明されても、あまりピンとこないですね。とはいえ、今や中小企業といえどもCSRやSDGsを無視することはできなくなっています。むしろ、賢く実行すれば中小企業でも大きな強みに変わります。ここでは中小企業がCSRやSDGsに対応するために、基本からわかりやすく解説します。
今回は中小企業でのCSRやSDGsへの対応について、企業の社会的責任について詳しい朽木鴻次郎氏がお答えします。
中小企業からのよくある質問
最近、話題になってるCSRやSDGsへの対応を、中小企業でもできる範囲で実行したいのですが、検討する上でのポイントを教えてください。
この質問に回答する専門家
企業研修講師(フリーランス)
朽木 鴻次郎
一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。
目次
コンプライアンスとは?
コンプライアンスとは法令遵守のことです。法令といっても単なる法律や条例という法規範だけではなく、社会規範や倫理規範も含みます。つまり「法律に触れなければそれでいい」だけでは足りず、社会的・世間的に許されない行為、倫理的・良心的に許されない行為も行ってはならないということです。日本では、コンプライアンスという言葉は1990年代ごろから言われ始め、企業犯罪や不祥事を契機に広まりました。しかし、昨今のかんぽ生命の事件や、巨大自動車メーカーの内紛と元会長の海外逃亡などにみられる通り、法律違反をしないという最も狭い意味でのコンプライアンスも未だに十分とはいえません。
コンプライアンスからCSRへ
広義のコンプライアンスは、単に法規範だけではなく、社会規範や倫理規範も守るというものです。とはいえ、何かの規範があるからそれを逸脱しないという意味では、コンプライアンスは受動的であるといえます。そこで、企業に対してより積極的な対応が求められるようになりました。それが、CSR(Corporate Social Responsibility)、すなわち「企業の社会的責任」です。
CSR(社会的責任)と言われてもなあ…
それでは、どんな社会的責任を、どう果たしていけばいいのでしょうか?
一つの方向性は環境対応です。CO2排出を抑える、環境に優しい事業活動を行うなど、環境に着目し、CSR対応を推進した企業はたくさんありました。しかし一方で、環境対応だけで満足していいのか、という懸念もあったのです。
CSRを果たすうえで知っておくべきこと
社会的責任をどの分野でどのように果たしていけばいいのか、その手引きとなるものが2つあります。まず一つは、2010年にまとめられたISO26000規格です。そしてもう一つが、2015年に国連で採択された17項目からなるSDGs(Sustainable Development Goals)、すなわち「持続可能な開発目標」です。どちらも、企業組織が社会的責任を果たすための方向性を網羅的に取り上げたものです。キーワードは「サステナブル」
企業の社会的責任を考える上でのキーワードは「サステナブル(持続可能)」です。SDGsとは、まさに「サステナブル(持続可能)」のための行動目標がまとめられたものです。サステナブルとは、企業や社会が、現在も将来も、健全に活動をずっと続けていく(いける)ことを意味します。具体的には
「将来の利益を損なわない」
「いつまでもずっと長生きする」
「つぶれない」
「生き残る」
などの意味が含まれますが、次のように意訳するとしっくりくるのではないでしょうか。
「サステナブル=自滅しない」
これは「環境、福祉、ジェンダー平等(性差別排除)や貧困対策など、社会全体の向上を全く考えず、目先の利益だけを追求していたら、結局うまくいかなくなりますよ」というニュアンスです。
すなわちSDGsは
「自滅しないために我々が掘り下げるべき目標」
だと認識していただければと思います。
SDGsの17項目
SDGsが提唱する17項目の目標は次のとおりです。- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- 全ての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤を作ろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的対策を
- 海の豊さを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsの実現には「x番とx番とx番を取り上げる」という個別項目への対応ではいけません。17項目全てが相互に関連しているため、包括的に取り組む対応が本来は望ましいものです。特に国家や政府、地方自治体や巨大企業では、包括的な取り組みが当初から可能であり、望ましいと思います。
中小企業はどうやってSDGsに取り組む?
しかし、中小企業では包括的な取り組みは、現実として不可能な場合がほとんどでしょう。当面の対応は、チョイスしたいくつかの項目から行い、それを突破口として、将来の包括的対応の実現を目指すことがベターなのではないかと思います。どれから取り組むか?
取り組む項目をチョイスするにあたって、二つのアプローチがあります。
1. 現在行っている事業と関連の深いものを選ぶ
2. 将来の事業展開をSDGsの観点から検討してみる
特に「2.」は、今後新規事業計画を企画するにあたって、SDGsに貢献する分野を優先的に検討するという方法です。SDGsは今後も注目され、全世界的な取り組みが進んでいくと考えられるため、将来の事業展望をSDGsの観点で考えてみましょう。SDGsは、中小企業にとっても経営課題といえるのです。
前述した17項目のうち「5. ジェンダー平等を実現しよう」は必須
17項目の中でも特に「5. ジェンダー平等を実現しよう」は業界や企業規模を問わず、重点をおくべき必須項目です。ジェンダー平等とは、女性に対する差別意識や対応をなくすことです。
また、「女性のエンパワーメント(女性に力を与える)」という考えもあり、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントはワンセットです。ジェンダー平等の実現は2020年代の「新常識」となり、それを軽視する企業は市場から淘汰されていくことは必至であるとまで言われています。
CSRやSDGsに取り組むなら、広報活動も忘れずに
CSRやSDGsへの取り組みは、企業評価の指標として広く採用されはじめています。CSRやSDGsに積極的に対応している企業は、社会や市場、取引先や顧客から高く評価されるのです。品質や価格、納期と同じく、CSRやSDGsへの取り組みが競争力を生む武器となる時代です。広報活動とリンクさせ、貴社の取り組みを広く発信して社会や市場、取引先や顧客から認知してもらうことが大切です。CSRやSDGsへの取り組みは、賢く実行すれば中小企業でも大きな強みに変わるものなのです。
中小企業は項目を絞ってから取り組みましょう
大企業はもちろん、中小企業に対しても、社会的責任を果たすことが求められています。CSR(企業の社会的責任)が注目されているのです。それでは何をどのように取り組んだらいいのか、その羅針盤ともなるものが、17項目からなるSDGs(持続可能な開発目標)です。
「自滅しないために目指すべき目標」と理解するとよいでしょう。とはいえ中小企業では、17項目の目標全てに対して、いますぐ包括的に対応することは不可能かと思います。どこから取り組んだらいいのか、現在の事業、将来の事業を考えながら社内で項目を絞って対応を始め、それを突破口とすることが現実的です。
専門家紹介
企業研修講師(フリーランス)
朽木 鴻次郎
専門分野
□ コンプライアンスを専門分野としている。
□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。
□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。
自己紹介
84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生
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