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2019/12/25

中小企業の中高年世代にパワハラを理解してもらう3つの項目

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中小企業に勤める昭和世代の中高年社員だって、パワーハラスメント(パワハラ)は問題だと分かっています。しかし「俺は厳しく育てられたんだ」と昔の経験に縛られていたり、「された方がそう感じたらパワハラなんです!」と言われるのが怖くて過度に萎縮してしまったりします。パワハラをさせず、萎縮もさせない、そんな方法を考えてみましょう。

今回は中小企業のコンプライアンス担当者からのパワーハラスメント(パワハラ)対策についてよくある質問に、コンプライアンスのスペシャリストである朽木鴻次郎氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

昭和世代の中高年社員の言動に不安を感じているので、パワハラ対策をしたいと思っています。どうやってはじめればいいのでしょうか。

この質問に回答する専門家

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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。

目次

見出しアイコン中高年社員にありがちなパワハラの悩み

以下は、昭和世代の中高年社員がパワハラに対して抱える悩みの典型的な声です。

「私たちだって若い頃は先輩や上司から厳しく指導されたんだ。やっぱり新人は厳しく育てないと。指導のために声を荒げるのもパワハラなんですか? 指導のためなんだけどなぁ…」

「二日続けて遅刻した20代の部下に遅刻の理由を尋ねたら、悪びれもせず『寝坊っす! 自分、朝弱い人間なんで!』ってみんなの前で言い放ったんですよ。課長の私が女性だからってナメてるのかしら? ちゃんと叱って指導したいんだけど、今はすぐパワハラって騒がれちゃうし…」

中小企業のコンプライアンス担当者としては、彼・彼女らのパワハラに対する「意識のなさ」あるいは「意識しすぎ」に不安を感じるのも当然のことです。

見出しアイコンパワハラを理解するための3つの項目

中小企業がパワーハラスメント問題で悩まないためにはどうしたらいいのでしょうか?
効果的な対応策は、やはりパワハラについてよく理解してもらうことです。それには次に挙げる項目を順番に説明するアプローチが有効です。

1. 厚生労働省のガイドライン
2. パワハラの定義(狭義と広義)
3. パワハラの有無や程度の判断基準
それぞれ確認していきましょう。

1.厚生労働省のガイドライン

厚生労働省はパワーハラスメントの指針(ガイドライン)を定めています。そこでは、パワハラ言動の6類型と概念を構成する3要素を示しています。

パワハラの6類型
①身体攻撃:暴力や威圧的な態度など
②精神攻撃:暴言、人格攻撃、ねちねちイヤミ
③人間関係切離し:村八分、仲間外れ、仕事から切り離す
④過大な要求:多量の仕事や能力を遥かに超えた仕事を与える
⑤過少な要求:嫌がらせのため上級管理職に草むしりをさせる
⑥個の侵害:プライベート領域に踏み込んでくる

パワハラを構成する3要素
①優越性を背景にすること(経営者、上司や先輩など職制上の優越性に加え、同僚や部下の集団、上司より業務に精通している部下等からの場合も含む)。
②社訓を数十回大声で読み上げることを命ずるなど、適正業務を超えること。
③身体的精神的に苦痛を与えること。職場環境が悪くなること。

2.パワハラの定義(狭義と広義)

厚労省の定義では、ガイドラインで示した6つの類型行為について、3要素の「全て」が認められる場合がパワハラであるとしています(狭義のパワハラ)。
しかし、それではあまりに限定的と疑問視する意見もあります。6つの類型行為が職場で行われたとき、3要素の「どれか」が認められれば、それはパワハラであると考えるべきでしょう(広義のパワハラ)
広義のパワハラに該当する言動は、行為者が処分されるかどうかは別として、とりあえず問題行動としてやめるべき行為といえます。

【注意】パワハラ規制法が2019年5月に成立し20年4月に施行されます(中小企業が対象となるのは22年)。厚労省は現在指針を見直し中で、19年中には公表される予定です。ただしパワハラを定義する6類型と3要素はそのまま踏襲される見込みです(2019年11月25日現在)。パワハラの定義として厚労省は依然狭義を採択しそうですが、識者からは疑問が投げかけられている状況です。

3. パワハラの有無や程度の判断基準

パワハラとセクハラを比べてみましょう。

まずはセクハラですが、セクハラの有無や程度の判断に当たって、一定の客観性が一応は必要です。しかし、性的・差別的な言動で相手や周囲が不快に感じたかどうか、それが一番重要になります。なぜなら、職場にはそもそも「性的な言動(卑猥な言動)や差別言動」は不要だからです(参考:中小企業の考えるセクハラは古い!? 今こそ確認したい定義と境界線-リンク- 中小企業の考えるセクハラは古い!? 今こそ確認したい定義と境界線 )。

一方パワハラです。組織には上下関係があります。パワーを持つ人、それに従う人がいます。そのパワーの使われ方が適切か不適切かの判断を迫られる。それがパワハラ問題です。
セクハラと違って、職場に必要なパワーを背景とするパワハラは業務と密接な関係を持っています。パワーが業務の正当な範囲内で使われたかどうか、そこが問題となるケースが多いのです。
ですから、パワハラの有無や程度を考えるときには次のような事実や事情を十分かつ多角的に確認する必要があります。

・当事者同士の関係性や感情
・問題行為が発生した経緯
・問題行為の詳細な内容、発生場所、頻度
・当事者以外の関係者や周囲への影響
・業務への影響
・その企業や組織の業務内容や文化、歴史

以上から適切な行為かどうか判断されます。
厚労省のガイドラインにある「3要素」の中でもとりわけ「適正な業務の範囲を超えているかどうか」を客観的に判断することになります。世代の異なる男女複数の意見を聞いた上での判断が求められるでしょう。
中小企業では少数精鋭で業務に当たっているため、業務判断はいい意味で即断即決、独断専行になりがちですが、パワハラの有無や程度の判断はこのように多角的な事実の慎重な検討が必要です。

見出しアイコン正しく理解し、パワハラに悩まない職場環境へ

パワハラの正しい理解には、厚労省の指針(ガイドライン)が参考になります。しかし、ガイドラインを文字どおり解釈してしまうと定義が狭すぎると感じられます。
犯罪行為や不法行為にも該当するパワハラ(狭義のパワハラ)に至るずっと手前、つまり、「広義のパワハラ」もしてはならないものだと理解してもらいましょう。

昭和世代の中高年社員は、自分もされたからと、大昔の経験をもとにパワハラを無意識に行ってしまったり、逆に、パワハラを意識しすぎて、不必要に萎縮して正しい指示や命令ができなくなってしまうことがあります。
声を荒げなくても、もちろん、暴力をふるわなくても、部下の指導はできます。また、組織に悪影響を与えるような行動に対しては冷静な態度で指導すれば全く問題ありません。「された方がそう感じたらパワハラ」と言い切れるものではないのです。

・パワハラを正しく理解する(広義のパワハラ)
・昔の常識は通用しない
・とはいえ、過度に萎縮する必要もない

中小企業のコンプライアンス担当者は、以上のポイントを踏まえて、昭和世代の中高年社員の意識改革を進めてはいかがでしょうか。
そのためにも、この記事をもとに、社内で勉強会や啓発活動を行ったり、専門の講師を招いての研修を企画したりすることは有効な手段だと考えられます。

専門家紹介


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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

専門分野

□ コンプライアンスを専門分野としている。

□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。

□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。

自己紹介

84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生

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