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2019/10/31

どこからがパワハラ?セクハラ? 中小企業で起こりがちなハラスメント

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セクハラ・パワハラという言葉が世間で使われ始め、企業や政治家のハラスメントはニュースにもなる時代。どのように予防するか、特に従業員同士の距離が近い中小企業では悩ましい問題となっているのではないでしょうか。
今回は中小企業のコンプライアンス担当者からの相談に法務の専門家 朽木鴻次郎氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

最近、コンプライアンスが厳しくなってきていますが、中小企業なので昔ながらのシニア社員によるパワハラ、セクハラを心配しています。どこまでがハラスメントかの線引きもよくわかりません。
どのように対策を行えば良いでしょうか。

この質問に回答する専門家

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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、2004年から任天堂勤務。国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事の後、2018年退職。一貫して法務畑。

目次

見出しアイコン中小企業でのハラスメント防止の難しさとは

ハラスメントとは、立場の強い者が弱いものに、嫌がらせなどを何度も繰り返して苦痛を与えることで、職場の人間関係の中から生まれてくるものです。

中小企業の特徴の一つは、文字通り社員の数が大企業に比べて少ないこと。
社員が少ない分、親しく家族的な良好なコミュニケーションが取りやすいということもありますが、逆に、人間関係が濃密すぎてプライベート領域に踏み込まれる場合もあります。そこにハラスメントが発生しやすい一面があります。また、ハラスメントの解決策の一つである加害者(行為者)・被害者を異動させて接点を無くす方法も、中小企業では難しい場合もあるでしょう。

つまり中小企業では大企業に比べて人間関係が濃密であり、それには良い面もある一方でハラスメントの原因にもなり、一旦ハラスメントが発生すると、穏便な解決が大企業に比べて難しくなる場合もあると考えられます。

見出しアイコンハラスメントに線引きはできるのか

ハラスメントは行為者と被害者の複雑な人間関係の中で生じるものです。人間関係を〇X(まるばつ)式のデジタル的に評価することはできません。

ハラスメントの判断にあたっては、複雑な人間関係と発生したたくさんの事実を多角的に調査します。行為者も被害者もどちらも大切な社員です。明らかに犯罪行為となる場合は別として、問題の言動がどの程度悪質なのか「程度」を判断するもので、ここからここはダメ、と線を引くことはできません。OKとNGの境目は、幅の広いグレーゾーンで濃淡のあるものです。

もちろんどんな言動がセクハラなのかパワハラなのか、裁判例もありますし政府のガイドラインも存在します。しかしそこで示されるのは「真っ黒」なハラスメント言動です。裁判をしたら負ける。犯罪行為とみなされる。損害賠償をしなければならない。そんな行為です。

しかし、私たちの職場は法廷でもないし、私たちの日常は裁判でもありません。そこから先は真っ黒という線のもっともっとずっと手前で止まらなければならないのです。「線を引いてくれ」の質問の背後には「ギリギリまでならやっていいのだろう」という間違った考えにつながる事をご理解ください。

ハラスメントの種類について
会社のエアコンが暑いとか寒いとかの「エアコン・ハラスメント(エアハラ)」血液型で性格を決めつける「ブラッドタイプ・ハラスメント(ブラハラ)」。冗談のような「〇〇ハラ」が氾濫しています。
しかし、1. セクハラ、2. パワハラ、3. マタニティハラスメント(マタハラ)は深刻な人権侵害であり法令違反です。たくさんの「〇〇ハラ」の氾濫で、深刻なハラスメントであるこれらのハラスメントの深刻さが希釈されてしまっているのは残念なことです。

1.セクハラは職場での性的言動を原因とします。また、性差別(特に女性差別)や男性はかくあるべし・女性はこうするべき、といった性別による固定的な役割分担も含みます。職場には性的言動も性差別も必要ありません。

2.パワハラは、職場では本来必要な上下関係や指揮命令権を、不適切な形で行使するものです。暴力や暴言は犯罪行為に該当する場合もあります。

3.マタハラは、妊娠出産育児という本来手間も時間もかかる人間の営みのしわ寄せが職場の負担となることから生じます。これは人的資源の適正配置がなされていないこと、つまり経営問題であり、また子育て世代に対する政策問題、社会問題でもあります。

職場では、セクハラ、パワハラ、マタハラが重層的に複雑に発生することが多々あります。

見出しアイコン中小企業におけるハラスメントの防止に役立つ手法

セクハラ防止措置は中小企業大企業に関わらず法律で義務づけられています。(注:厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室発行ガイドライン 平成27年6月)パワハラについても同様な防止措置を義務付ける法律が成立しています。中小企業のパワハラ防止措置は2022年に義務化されます。その骨子は次の通りです。

1.トップからハラスメント対策に取り組む
会長、社長あるいは創業者の強い決意を「ハラスメント防止ポリシー」としてまとめ、それをHPなどに掲載して社内外へ表明する。

2.全社的なハラスメント対策の規則や体制を構築する
ハラスメント防止担当部署を作り、ハラスメント防止ポリシーを社内規定に落としこむ。ハラスメントの類型やハラスメント排除理由を明記し、ハラスメント行為への処分処罰も定める。

3.全社の意識啓発のための活動を継続する
社員が少なくとも年に一度は研修やe-ラーニング、自主的なグループ活動等により、ハラスメント防止意識を新たにするような機会を設ける。

4.相談窓口を設け、対応し、再発防止に取り組む
社内に男女それぞれ1名ずつからなるハラスメント相談窓口を設け周知を徹底する。可能であれば、専門家を起用し外部にも相談窓口を設ける。加害者に対しては、改めてハラスメント排除の意義を徹底し、再発防止を図る。

5. 被害者のプライバシーを守り不利益になるような取り扱いはしない
相談窓口の設置、相談員の守秘義務、相談者への不利益な取扱はしない旨を、社内規定に明文で定めておく。相談員には、相談内容の秘密保持の重要性を理解させ、秘密保持念書を取り付け、社内には秘密保持義務があることを周知し、不安を取り除いておく。

もし現時点で、セクシャルハラスメントについても上記対応がなされていないようであれば、早急な対応が必要です。セクハラについては対応しているがパワハラには未対応であるなら、法的には2022年までですが、今から準備し制度を整えておくべきでしょう。ハラスメント防止については、研修やセミナーが多く準備されています。信用のおける研修会社や講師に依頼して社内啓発を行うことは一考に値します。

見出しアイコン「ブラック企業」の烙印を押されないためにも早期対応を

セクハラ、パワハラ、マタハラは、職場での深刻なハラスメントです。「昔はこのぐらいは許されていたんだよ」「オレは上司から怒鳴られたり、書類を投げつけられたりして、厳しく躾けられたもんだ」「子供がいるからって、仕事で手を抜くのは許されないわ」。 このような発言が許される時代ではなくなりました。いえ、以前でも許されなかったし、言われた人はひどく傷つき、嫌な思いをしていたのです。

法整備も進んでいき、中小企業にも対応が求められます。このインターネット社会です。ハラスメント対策が遅れると、瞬く間に「ブラック企業」の烙印が押され広まって、本業にも影響が出てくるでしょう。そして、名誉回復には相当な労力と時間がかかることでしょう。 ぜひ、ハラスメント対策を早急に進めることをお勧めします。

専門家紹介


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企業研修講師(フリーランス)

朽木 鴻次郎

専門分野

□ コンプライアンスを専門分野としている。

□ 「職場でのいじめやいじり対策」「職場でのハラスメントの防止」「パワハラをしないためのアンガー マネジメント 」などの領域に加え「情報漏洩対策」「SNSで不適切な言動をしないために」「ビジネスパーソンのための法務入門」など企業法務全般に詳しい。

□ 職場でのいじめやいじり、ハラスメント相談事例への対応も多数。

自己紹介

84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。岩田社長と共にDS/3DSシリーズ、Wii/Wii Uのなどの立ち上げに従事、その後Switchの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでのCSR/法令遵守推進活動に従事。
18年に任天堂退職後は、様々な企業や自治体で研修プロ講師として活躍中。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生

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