経営企画・戦略立案
2020/5/16
ものづくり補助金に採択されるために、中小企業が必ず押さえるべきポイント
令和元年補正予算で、中小企業を対象とした「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」事業が始まりました。返却の必要のない多額な補助が受けられ、使い勝手の良い補助金であるため、応募企業も多く、これまでの採択率は50%以下です。しかし、ポイントを押さえることで採択の可能性を引き上げることができます。
今回はものづくり補助金についてよくある質問に、申請書作成など多くの支援実績があるKAN経営企画代表の漢那宗丈氏が具体的にお答えします。
中小企業からのよくある質問
ものづくり補助金で採択されるために、押えるべきポイントが知りたいです。
この質問に回答する専門家
KAN経営企画
代表
中小企業診断士
漢那 宗丈
大手総合電機メーカーのIT部門で事業企画・製品企画・マーケティングに従事すると共に、組織設計・改革に参画。経営コンサルタントとして独立後は中小企業の事業計画やマーケティング・組織改革などを支援。
目次
ものづくり補助金が大きく変わりました
ものづくり補助金は、事業拡大や効率向上を計画する中小企業の新しい取り組みに対し、設備投資資金などの1/2もしくは2/3以内(補助率)を補助します。応募する型によって補助金額の上限は違いますが、多くの場合は1,000万円未満の補助が受けられ、返却の必要はありません。ものづくり補助金は予算規模も大きいため、その時々の政策の実現のために活用され、毎年大きく変化してきました。令和元年度補正予算ものづくり補助金がスタート
2020年のものづくり補助金で大きく変わったのは、次の4点です。
1.募集が五次までの通年型に変更
一次;2020年3月26日~31日/二次;4月20日~5月20日/三次;5月22日~8月3日/四次;11月頃/五次;2021年2月頃
2.事業類型が変更
一般型の他に、グローバル展開型、ビジネスモデル構築型、企業間連携型、サプライチェーン効率化型が新設
3.応募方法が電子申請に限定
4.応募要件と加点ポイントが変更
付加価値額・賃上げを応募要件とするなど、従業員施策中心に変更されフォローアップを強化(未達時は返却もあり)
5.二次募集以降の一般型に新型コロナ特別枠を新設 ・・・ 今度限りと推測される。 新型コロナ対応の支出が全投資額の1/6以上を条件に、優先審査や補助率の優遇など
補助金の目的等は従来通り
ものづくり補助金の目的は従来通りで、事業計画を立て運営している企業の新しい取り組みを支援するものです。また、その取り組みを遂行する能力があり、市場ニーズに合致し、売上を増大させることが求められています。政府が求めているのは、補助金を使った新しい取り組みにより、企業の利益が増大し、税収と雇用が増大することなのです。
ものづくり補助金について、事前に準備すべきことは?
引用:『ものづくり補助⾦事務局 公募要領 概要版』よりものづくり補助金では、補助金を使用できる「補助事業期間」は10ヶ月程度です。この期間内に導入設備費(また外注費など)の支払等を済ませなければいけません。そのため、補助事業期間で一から製品開発を始めると間に合わない可能性があります。では、補助事業期間内に補助金を使うためには、具体的にどのような準備が必要なのでしょうか。
導入設備等を決めておく
補助事業期間が始まるまでは、補助金で購入するものを発注することはできません。したがって、応募申請の前に、必要な設備の仕様検討や、ある程度の機種選定、外注内容や外注先の見通しなどを決めておく必要があります。また、補助事業の遂行にあたっては、見積などのエビデンス管理や報告書作成等、多くの作業があり、推進体制の整備が必要です。
設備等の購入費用を用意しておく
補助金が支給されるのは、補助事業終了後に実績報告書などを提出し、確定検査に合格した後です。つまり、補助事業期間で実際に支払う全額は企業が用意する必要がありますので、事前に準備しておきましょう。融資を受ける必要がある場合には、金融機関と相談をしておいてください。
電子申請に対応しておく
2020年から応募方法が電子申請のみとなり、郵送では受け付けられません。電子申請にはGビズIDの取得が必要です。パソコンから申請可能ですが、印鑑証明の提出もあり2週間程度かかります。GビズIDは、社会保険手続きの電子申請様々な行政サービスにログインするためのID・パスワードです。
ものづくり補助金を獲得できる事業計画を作る
応募申請書作成の前に、補助事業が成功するための事業計画を整理する必要があります。ターゲット市場と顧客のメリット、推進体制とスケジュール、拡販施策などをまとめ、事業計画として組み上げます。事業計画は補助事業だから策定するものではなく、普段の企業活動に不可欠なもののはずです。しかし、日頃の業務に追われ、ないがしろにしている企業も少なくありません。応募をきっかけに事業計画を見直すのは、大きな副次的効用です。ここでは、そんな事業計画についてお話します。
事業計画作成のために整理すべきこと
補助金を申請する方の中には「単に古くなった設備を更新したいだけなので、事業計画などない」という方もいます。しかし、事業を継続できているのは理由があります。提供している製品やサービスには、それを必要とする市場があり、他社と比較し選ばれている理由があるはずです。それを整理しましょう。
また、新しい設備の機能や性能は大きく向上しており、補助金でそれを導入すれば自社の新たな強みになります。強みをアピールするための拡販施策を策定すれば、りっぱな事業計画になります。
こんな事業計画事例があります
私が補助金申請を支援した事例です。古くからの商店街にありながらも、近隣に新しいマンションが増えている立地の歯科医院が、治療用のチェアの更新を申請しました。
立地条件から、患者は高齢者と子供が増えています。一方、導入予定のチェアは人間工学に基づき楽な姿勢で治療が受けられ、治療に使う水の衛生管理が向上し、患者の口腔内を見ることができるミラーが付くなど、新しい機能があります。
そこで高齢者と子供の患者に対し「安全な環境で、分かりやすい説明によるインフォームドコンセントに基づいた、楽な姿勢で受けられる安心の治療サービス」と位置付けました。そして、商店街のHP等を使って告知する事業計画を策定した結果、採択に至ったのです。
ものづくり補助金の採択率を上げるポイント
応募申請書は、主に「補助事業が効果を上げることを示すもの」です。しかし近年、申請書のレベルが向上しており、ツボを押さえた申請書でなければ採択が難しくなっています。そんな中で採択率をあげるにはどうすればいいのでしょうか?令和元年度補正のものづくり補助金は新型コロナ特別枠で応募する
特別枠の応募が先に審査され、採用されなかった応募案件とその他の一般枠が審査されます。補助率も高く圧倒的に有利なので、今回は特別枠での応募を検討して下さい。
「審査項目」に沿った申請書を作成しよう
まず、申請書作成の基本は「公募要領」を熟読することです。公募要領には「審査項目」が表でまとめられています。採択されるためには、「審査項目」に沿って、以下のポイントを踏まえた申請書を作成しましょう。
1.付加価値額を年率平均3%以上増加などの要件を満たす3~5年の事業数値計画の策定が必要。そのため、実施内容に対して充分に達成が想定される売上数値になるように調整する。
2.ターゲット市場を明確にし、顧客にとってのメリットや、他社の製品・サービスより優れている点をアピールする。
3.企業の実績や従業員の能力レベル、また、実施体制やスケジュールなどを示し補助事業を遂行できることを証明する。
4.導入する設備等を自己資金で賄う場合は、決算書などで資金余力があることを示す。また、融資を受ける場合は、金融機関名を挙げて折衝状況から融資の確度が高いことを示す。
5.実現可能な加点ポイントは全て申請する。
採点者を考慮した申請書を作成しよう
ものづくり補助金では、短期間で多くの応募があるため、多数の採点者が短時間で採点すると推測されます。採点のバラツキも予想されるので、より高い点数を獲得するために、以下の工夫が必要です。
1. 事業の具体的な内容は10ページ以内が求められているので、簡潔にまとめる。
2.冒頭部分に事業の要約を示すなど、採点者が理解しやすい構成にする。
3.一般的ではない用語などには、簡単な解説をつける。
4.ポイントとなる部分はカラーマーキングなどでアピールする。
申請書作成には外部リソースの利用も有効
今回の補助金の要領には、「事業計画の策定に際して専門的な支援が必要な場合は、中小企業を支援する認定経営革新等支援機関にご相談下さい」と記述があります。これは、近年申請書のレベルが上がり、対応できない企業が多くなっていることの表れと思われます。中小企業の内部リソースは限られますので、外部リソースも活用も検討しましょう。
ものづくり補助金を活用して業績アップを
ものづくり補助金は、企業の新しい取り組みを応援するものです。採択される応募申請書を作り、大いに活用して更なる業績向上を図ってください。
申請書作成に先立つ事業計画の策定は、補助金獲得と同様に重要です。補助金申請がきっかけで事業計画を策定することは、今後の事業展開に大いに役立つはずです。事業承継を検討している企業は、後継者に事業計画の策定と申請書作成を任せれば、後継者育成の大きな一歩となります。
なお、補助金の公募要領は年度ごとにその内容が変更されることもあるので、必ず公募要領をチェックしてください。参考までに、2020年の公募ページのリンクは
こちらです。
専門家紹介
KAN経営企画
代表
中小企業診断士
漢那 宗丈
専門分野
□ 事業企画 ・・・ 経営分析、市場分析、ビジネスモデル構築、売上損益計画 など
□ 新製品開発 ・・・ 市場性調査、競合分析、ターゲット市場選定、製品仕様策定 など
□ マーケティング ・・・ デビュー戦略、販売チャネル戦略、広告宣伝戦略 など
□ 補助金取得活用 ・・・ 製造業から医療関係まで支援実績多数
□ IT導入 ・・・ 導入予定の業務分析、ITシステム仕様策定、ITベンダー選定 など
自己紹介
信州大学工学部大学院終了後、日立製作所のIT部門に勤務。10年間コンピューターハードウェアの開発設計に従事し、その後は一貫して事業企画・製品企画に所属して、事業計画や製品企画、マーケティングに従事すると共に、組織設計・改革にも参画。退職後に経営コンサルタントとして独立し、中小企業の事業計画、マーケティング、IT導入、組織改革などに加えて商店街振興などを幅広く支援。
KAN経営企画ホームページ https://mkanna.wixsite.com/kanna
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