人事・労務管理

人事制度

2020/1/30

中小企業がとるべき、同一労働同一賃金の対応とは

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中小企業においても、2021年4月から働き方改革における同一労働同一賃金への対応が求められます。今のうちから、自社の待遇が均等・均衡待遇になっているかを確認し、必要であれば対応の準備をしていきましょう。今回は同一労働同一賃金とはどういうものかの説明から具体的な進め方まで、オフィス ア ライト 代表の杉山達郎氏が解説します。

中小企業からのよくある質問

2021年から中小企業にも施行される同一労働同一賃金について、どう対応していけばよいのでしょうか?やらなければならないことを知りたいです。

この質問に回答する専門家

杉山 達郎さん画像

オフィス ア ライト

代表

杉山 達郎

慶応義塾大学卒業後、株式会社ニコン入社。企業におけるさまざまな人事労務課題について、労働者代表としてまた企業経営者として取り組み、現在は「労使がわかる社会保険労務士」と中小企業経営者の支援をしている。

目次

見出しアイコン同一労働同一賃金の背景・目的

昨今よく耳にする働き方改革は「労働時間の見直し」「同一労働同一賃金」の2つからなります。労働時間の見直しは一部すでに開始されていますが、同一労働同一賃金も大企業では2020年4月1日から、そして中小企業でも2021年4月1日から実施されます。
なぜ同一労働同一賃金が求められているのでしょうか。

なぜ同一労働同一賃金が必要なのか?
同一労働同一賃金の目的は、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」です。
日本では、正社員を主とする雇用慣行が中心でしたが、リーマンショック以降非正規社員が増大し、総務省労働力調査では、令和元年7-9月期の非正規社員比率は38.5% (労働力調査2019年度) にものぼり、昭和59年の15.3% (厚生労働省労働市場分析レポート第47号) から比べると格段に増加しています。
また、国税庁の平成30年分民間給与実態統計調査によれば、正社員の平均給与504万円に対して、非正規は179万円と3倍近くの差 (平成30年分民間給与実態統計調査)になっています。

政府は今後、正規と非正規の格差を縮小し公正な待遇を確保することで、非正規社員の生活を改善し、景気回復や経済の活性化につなげたいとしています。そのための同一労働同一賃金なのです。

見出しアイコン同一労働同一賃金の中身を再確認

同一労働同一賃金とは具体的にどんなことなのでしょうか?「同じ仕事には同じだけの賃金を支払えということ」では不十分です。
同一労働同一賃金を説明する上で欠かせない「均等待遇」「均衡待遇」について、そして同一労働同一賃金が求める待遇の範囲について見ていきましょう。

「均等待遇」と「均衡待遇」を説明できますか?
同一労働同一賃金では、「均等待遇」と「均衡待遇」が求められます。
「均等待遇」とは、①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、この2つが同じであれば、差別的取り扱いをしてはいけないということです。
例えば、実際に行っている仕事内容が同じで責任の程度も同じであれば同じ待遇が求められます。

「均衡待遇」は、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情、この3つが異なるのであれば、その相違を考慮して、不合理な待遇差を禁止するものです。
例えば、仕事が同じであっても、正社員の場合は異動や転勤があったり、必要に応じて残業をする義務があったり、パート社員への指導教育もしなければならない、などの場合は、均衡待遇が求められます。 それぞれの事情に応じて適正な差の待遇をしなさいということです。

同一労働同一賃金の求める待遇の範囲は“賃金”だけではない?
同一労働同一賃金の求める均等もしくは均衡待遇は、基本給、賞与、各種手当といった賃金にとどまらず、福利厚生・教育訓練などにも及びます。
また、賃金の場合は基本給や手当などを合計した額ではなく、個々の賃金項目について不合理な差がないかが問われます。 福利厚生・教育訓練では、食堂・休憩室などの施設利用や休暇制度、教育訓練ではキャリアアップのための教育制度なども対象です。

見出しアイコン同一労働同一賃金は企業にメリットがあるか?

同一労働同一賃金は、非正規の待遇改善を図るため、コストがかかり企業にとってマイナス面ばかりと思われがちです。本当にメリットはないのでしょうか?

非正規社員の戦力化
非正規社員の待遇を改善することは確かにコスト高につながります。しかし、それは一方では非正規社員という人に対する“投資”を行ったことになります。
非正規社員の待遇を改善することで彼らの仕事に対するモチベーションが向上し、従来以上の戦力となって活躍してくれれば、会社全体の業績向上が期待できます。

人手不足の解消
中小企業の大きな課題の一つは人手不足です。日本の人口構造を考えれば、今後も人手不足は継続していくでしょう。そのため、企業はさらに女性・高齢者・外国人など多様な人材を活用していく必要があります。
ところが、そのような人材の中には、各々の事情や都合などにより正社員で働けない人たちもいます。そのような人たちの待遇を改善し活躍の場を与えることで、人材を確保し、また定着しやすくなることが期待できます。

見出しアイコン今すぐ始められる同一労働同一賃金の進め方

中小企業にとって、同一労働同一賃金の導入は2021年4月ですから、まだまだ先のことと考える企業も少なくありません。しかし、やるべきことは意外とたくさんあります。まだまだと思っていて大丈夫でしょうか?

具体的な進め方
同一労働同一賃金は以下のように進めていきます。

1.雇用形態の確認
現在会社に対象となる契約社員やアルバイト・パート社員など非正規社員がいるかどうか、まず確認しましょう。定年再雇用の方も対象となりますので、お忘れなく。
2.待遇状況の確認
もし対象となる非正規社員がいる場合は、賃金や福利厚生などの待遇に差があるか確認しましょう。
3.待遇の違いの確認
もし待遇に差がある場合は、その差が「不合理ではない」と説明できるものか確認しましょう。
4.「不合理ではない」ことの説明準備
非正規社員に対し、不合理ではないことを説明できるように準備しましょう。
5.不合理な差の解消案の作成・実施
「不合理ではない」と言い難い差がある場合は、早急にその状態を解消するための手段を検討・実施しましょう。

従業員への説明
同一労働同一賃金の取り組みでは、事業主は、非正規社員から「正社員との待遇差の内容や理由など」の説明を求められた時に説明することが義務付けられています。そのため、個々の待遇について、きちんと説明できるように準備しておくことが重要です。

見出しアイコン早期着手をお勧めします

中小企業の義務化は2021年4月からですが、もし不合理ではないと言い難い差がある場合には、それまでに改善しなければいけません。
そのためには、制度の見直し、必要コストの経営への影響試算、就業規則等の変更、従業員への説明など、対応すべきことがたくさんあります。それを考えるとできるだけ早く着手することをお勧めします。

もし不明な点があれば、専門家に相談してアドバイスをもらったり、「働き方改革推進支援センター」で無料の相談支援を受けることができます。また非正規社員の正社員化や待遇改善の取り組みを実施する場合には助成金を受けられる可能性もありますので、確認してみると良いでしょう。

専門家紹介


杉山 達郎さん画像

オフィス ア ライト

代表

杉山 達郎

専門分野

□ 人事・賃金制度の設計・構築、運用改善

□ 働き方改革制度導入・運用提案

□ 人事労務を中心とした経営管理支援

自己紹介

慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社ニコン入社。グループ会社である株式会社那須ニコン代表取締役、株式会社ニコン・エシロール執行役員生産企画ゼネラルマネジャー、オプトス株式会社取締役経営管理部長などを歴任。30代には、会社を休職しニコン労働組合中央執行委員長も担当。現在はニコンを早期退職し、オフィス ア ライト代表へ。企業におけるさまざまな人事労務課題について、労働者代表としてまた企業経営者として取り組んできました。その経験を基に、現在は「労使がわかる社会保険労務士」として中小企業経営者の支援をしている。

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