人事・労務管理

人事制度

2019/10/29

失敗しない、中小企業の人事評価制度の作り方・見直し方

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会社の人事評価制度は、今いる人材のモチベーションをあげ、会社の成長に欠かせない仕組みです。大切な仕組みですが、「人事評価制度を導入したけれどうまく運用できない」「自社に適した人事評価制度をどうやって作るのかわからない」という声をよく聞きます。

今回は人事評価制度についてよくある質問に、人事労務のスペシャリスト株式会社アンカーJ代表取締役千葉峰広氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

明確な評価制度がないのですが、 従業員の労働意欲を高めるためにも、そろそろちゃんとつくりたいです。 でもお金も時間もノウハウもなく、どうすればいいかわかりません。
つくり方を教えてほしいです。

この質問に回答する専門家

千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。

目次

見出しアイコン中小企業に人事評価制度はなぜ必要なのか

生きるために働かなければなりませんが、「やる気の源泉」がある職場で働くことを経営者も従業員も望んでいます。では、「やる気の源泉」って何でしょうか? それは、今の自分の役割であったり、職場のコミュケーションであったり、仕事のやりがいであったり人それぞれが異なる思いをもっています。
そのなかのひとつに「会社の人事評価制度」があります。

会社にとってのメリットとは
中小企業は、現場第一主義で人事制度等のバックオフィス系の整備はどうしても後回しになってしまうのはやむを得ないことです。経営の強力なリーダーシップであったり、現場のスタープレイヤーの活躍で、ある程度業績向上までは到達できますが、組織が大きくなると組織の統制がどうしても必要となり、経営理念などを軸としたベクトル合わせをしなければなりません。更なる業績向上のためにも人事評価制度は必要となってきます。

従業員にとってのメリット
評価制度がない会社の場合、自分は何で評価されるのかわからないと不安になります。そこで上司へのゴマスリやイエスマンといった会社が望んでいない行動するものがふえてしまうのも事実です。

評価制度を導入することで、自分の会社は「結果重視でプロセスはみない」会社なのか、「プロセスを重視する」会社なのかを従業員が共通の価値観とすることは、経営者にとっても従業員にとっても大切なことになります。

従業員は会社が自分に何を期待しているのかを知り、目標を達成して自分の成長を実感することで「やる気の源泉」を生み出し、公平な評価に安心感を抱くことで従業員の定着率や業績向上にも貢献し、さらには入社志願者へ自社の魅力をアピールすることにもつながりより良い人材の獲得にも役立つでしょう。

見出しアイコン人事評価制度を作るために必要なこと


人事評価には教科書的にいうと3つの構成要素があります。1つ目は、「業績評価」日常業務の評価、目標達成評価などが代表例です。2つ目は、「能力評価」日常の職務行動の量や質を高めるための能力評価項目です。昔は保有能力が主流でしたが、昨今はコンピテンシー評価という発揮能力を評価することが主流となっています。そして最後が「情意評価」です。人事評価は業績と能力の評価だけではいまひとつで、情熱や意欲、仕事への取組姿勢への評価と経営理念に基づいて行動しているかを見ることで、その会社の価値観共有や一体感を醸成することができるのです。
また、非管理職から上級管理職まで同じ評価項目と同じウエイトにすることは、適当ではなくウエイトを変えたり、等級によって評価項目を変えることが一般的です。




1.業績評価
 日常業務を仕事の量や質に注目して個別の目標に対してどうだったのか評価する手法や業務改善度合いを評価する手法があります。管理職には部門目標を自分の個人目標にブレイクダウンし、その達成度合いで評価する「目標管理制度」もこの業績評価となります。

2.能力評価
先に述べた発揮能力評価が主流ですので、基準表現も「~ができる。」ではなく、「~という行動をとっている。」という目指す能力の習慣化が評価ポイントとなってきます。

3.情意評価
こちらも能力評価と同様で、積極性や協調性等どの企業でも必要とされる項目が主流でしたが、昨今は経営理念等の強いメッセージ性もったものや企業価値を高めるために求められた社員の行動に注目した「全体最適」「お客様志向」といったバリュー評価項目が主流になりつつあります。

人事評価制度の作り方
中小企業は、バックオフィス系にあまりリソースを割くことはできませんから、簡素化した人事制度概念をグランドデザインすることから始めるのをお勧めしています。

▼手順―――
Step1.経営理念・大切にすべき価値観の再認識
Step2.必要とされる知識技能、期待される役割要件の抽出整理
Step3.人事評価スペック(評価項目、評価基準、評価シート等)
Step4.昇格、昇給、賞与への処遇設定
――――――

まず絶対やってはいけないのは、ネットのテンプレートから人事評価シートをダウンロードして「わが社の人事評価制度」としてしまうことです。
「人事評価制度とは何か?」を経営者がとことん考え、「処遇の格差づけに対する根拠の明確化:社員の貢献度・能力・態度を把握し、処遇格差に説明がつけられるようにする。」「育成指導ポイントの明確化:貢献度向上、育成ポイントを明確にし、マネジメントに活かすようにする。」を腹落ちさせて始めないと評価制度の手段と目的が逆になり弊害になる危険性があるからです。

専門家からのワンポイントアドバイス

人事評価制度は、良く言われる「社長の鉛筆ナメナメ評価」からの脱却を考える方もおられますが、私は30人程度の会社規模であれば、それもアリだと思います。
というのは、人が人を評価する限界があるということとシステマチックに出した「人事評価点」と「人事評判」が逆転現象になることがあるからです。
経営が従業員の職務行動を把握し、従業員からの公平感を得られているならば、あえてシステマチックな評価制度を導入する必要性はないと思います。

見出しアイコン人事評価制度を見直すタイミング

会社規模が大きくなり、経営者が全従業員の職務行動や評価ができなくなったと感じ始めたら、人事評価制度導入の時期だと考えてください。きちんと部下の評価や指導ができる最適値は5~10人まで、30人を超すと管理不能だと言われています。人伝の評価をそのまま評価点としたり、根拠のない評価を続けていると、社内不公平感がでたり、優秀な従業員が逃げ出してしまう事態となってしまいます。

会社規模に加えて、見直すタイミングは、経営理念の変更や社会の価値観の変更があったときに見なおすことが良いと思います。
例えば、新規事業分野進出や経営理念の変更による「情意評価項目」の変更、新規海外進出に伴い「グローバル人材能力評価項目」の追加、これまでは残業が多い人間を高評価としてきたが、働き方改革に準じた評価基準の変更などが挙げられます。

特に人事評価制度の目的である「処遇格差付け根拠の明確化と育成指導の明確化」が担保できなくなった時、システマチックな「人事評価」と「人事評判」との逆転現象が多発するようになった時が制度見直しのターニングポイントだと考えます

見出しアイコン人事評価制度は成功へのカギ

経営者からすると、これまで自分の評価で処遇してきたものをシステマチック評価制度導入で自分の思いとは異なる順位付けとなってしまうことに不安・不満を感じる方がおられるのも事実です。
解決策として、評価最終会議で1次評価者とのギャップを議論したり、社長源資で調整する方法等を提案しています。

専門家紹介


千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

専門分野

□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用

□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)

□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)

□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)

自己紹介

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住

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