人事・労務管理

人材定着

2020/1/31

心理的安全性が、中小企業の生産性を上げる!その生みだし方とは

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会議の中で、社員からの意見が出にくかったり、生産性の上がる結論に到達できないことは、大企業でも中小企業でもよくあることです。今回は、会社と社員、上司と部下のコミュニケーションの基盤である「心理的安全性」に関して、株式会社アンカーJ代表取締役の千葉峰広氏がお答えします。

中小企業からのよくある質問

社員からなかなか意見やアイデアが出ることがなく、経営層と社員のコミュニケーションがありません。社員に積極的に意見を出してもらうにはどうすればよいのでしょうか。

この質問に回答する専門家

千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカーに約 27 年勤務の後、2015年起業。人事労務のスペシャリスト。

目次

見出しアイコンよくある会議の風景

どの会社でも、会議は意思決定やコミュニケーションのツールとして重要視されています。しかしその中で、生産性が非常に高く、参加メンバーが満足感をもって終えている会議は、果たしてどの位あるのでしょうか。
大概は、発言者がいつも同じで、一言も発言しない参加メンバーがいたり、長時間に及んでも結局何も決まらなかったり、会議に対して多くの課題を抱えながら運営しているのが実情ではないでしょうか。
ここでは、会議を失敗させている要因についてみていきたいと思います。

要因1:「集団浅慮」
集団浅慮とは、アメリカの心理学者が提唱した概念で、グループシンクともいわれます。これは、異論を述べないように圧力を掛けたり、率直な意見を差し控えたりして、多面的なものの見方ができなくなり、集団として愚かしいほどの不適切な判断をしてしまう現象を指します。この現象が起こる原因として、話し合いによる問題解決や意思決定場面で、集団の一体感や心地よい雰囲気の維持にエネルギーを注ぎ過ぎることが挙げられます。
素晴らしい会議メンバーなのに、出した結論の質の低さにギャップ(どうして?)を感じてしまう場合は、集団浅慮が要因といえるでしょう。

要因2:「誰かが言うだろう。どうせ言っても変わらないだろう」
これは、会議に対する無関心な態度のひとつです。自分の意見で皆を説得しようとする気持ちが低く、結果的に自分は何も発言をしません。そのため、いつもの発言者の独演会で会議が終わってしまう、というパターンに陥ります。問題点をわかっている社員がいるのに、結局だれもその指摘をせず、不良品が市場に流出してしまう等の事故にも繋がってしまいます。

最大の要因は、「対人不安があること」
対人不安があると、質の良い意見は出づらくなるでしょう。加えて、日本人の特質ともいえる横並び社会や、他人の意見への同調・協調を求められる環境においては、「人と違った意見を発言する」「反対意見を言う」のは悪いことになってしまうことも多いでしょう。
「自分の意見に対する、他人からの反対が怖い」「こんな意見を発言したら、周りから白い目で見られるのではないか」という不安が常につきまとっている状況です。

見出しアイコン心理的安全性とは

会社には、個人で貢献する仕事や、チームで貢献する仕事があります。Googleが2012年から約4年をかけて社内で行った実験「プロジェクト・アリストテレス」において、「チームの生産性・パフォーマンスを高める要因は、チーム内の信頼性と心理的安全性である」という結論を発表しました。
次は、チームの生産性を高め、最高の業績を収める要因についてみていきましょう。

心理的安全性とは
Googleは「チーム内の信頼性が最高の業績を収め、その信頼性はチームの心理的安全性から生まれる」ということを発見しました。
では、心理的安全性とは何でしょうか。それは、組織・チームの中で対人リスクを恐れず、思っていることを気兼ねなく発言し、話し合える状態を指します。言いたいことを率直に言える風土ともいえます。
その結果、メンバー皆が同じだけ発言する機会を持っているチームとなり、良いスパイラルが回っていくでしょう。

心理的安全性と責任の関係
心理的安全性と責任の関係をみてみると、心理的安全性が高い場合、責任・プレッシャーが高ければ「学習」、低ければ「快適」となります。一方、心理的安全性が低い場合、責任・プレッシャーが高ければ「不安」、低ければ「無関心」になるといわれています。
また、リクルートマネジメントソリューションズ社が2017年に行った心理的安全性の調査結果によると、「心理的安全性」の認知度は約25%程度で、そのうち約75%が必要・やや必要と感じていました。

RMS Message vol.48 特集1「組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方」 24ページ参照)

心理的安全性が必要な理由としては、以下のような調査結果があります。


”心理的安全性が必要な理由について、自由記述で回答してもらったところ、 「業務上、情報共有が必要である」ほか、「多様な意見や活発な議論によって新しいものを生み出す必要がある」「早期にリスク情報を挙げてもらって大きなトラブルにつながるのを防ぐ」などが多かった。「意見を発言できないとストレスがたまる」「いろいろな意見が出されないと組織をまとめられない」「良い雰囲気づくり」「モチベーションの向上」といった業務上の必要性というよりは心情面に配慮した意見もある。
一方、必要ない理由としては「ネガティブな感情が出される」「いろいろな意見が出されると組織がまとまらなくなる」という意見が多かった。”

引用元:RMS Message vol.48 特集1「組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方」24ページ

見出しアイコン成果を出すために「心理的安全性」の他に必要なもの

心理的安全性が確保できれば全てうまくいくというわけではありません。前述の調査結果のように、「いろいろな意見が出されると組織がまとまらなくなる」といった事象が出てくるのも事実です。 それでは、「心理的安全性」を高め、他に何が必要なのかを考えていきましょう。

リーダーシップが与える影響
「心理的安全性」という目に見えない状態は、自然発生的にできるものではなく、誰かがその触媒を担う必要があります。それこそがチームリーダーの役目であり、リーダーシップの発揮の仕方が心理的安全性に影響を与えていると考えられています。
リーダーシップにも様々なものがありますが、対人型や変革型リーダーシップに心理的安全性との相関関係があるといわれています。そして、リーダー自身はチーム内で、チームメンバーに興味を持ち、「信頼」されていなければならないということは、いうまでもありません。

2つが整ったあとの、成果を出すためのプロセス
「心理的安全性」と「リーダーシップ」が整ったら、心理的対人不安が解消され、遠慮なく会話できるコミュニケーション基盤ができているかを再確認します。そして、メンバー同士が相手の仕事の負荷や進捗を気にかけ、必要に応じて協力・支援する風土づくりを始めます。チームとしての目標が共有され、各自の役割分担が明確になっていることを確認した上で、仕事のやり方やルールが守れているかを互いに確認・フィードバックしていきます。 このプロセスを踏むことでチームの成果が生み出されていくのです。

見出しアイコン社員から積極的意見を出してもらいたいなら

人事顧問をしていた会社で、非管理職の少集団活動の「信頼と心理的安全性が高い生産性や業績を出す」というテーマで話し合いをしたことがありました。風通しがよく、挨拶や気兼ねないコミュニケーションができていて、必要に応じて協力・支援関係もできているという職場環境に、皆さんがとても共感されていました。

日本では「空気」という言葉が、「心理的安全性」を阻害しているように思えます。
冒頭の質問にあったように、社員から積極的な意見を出してもらいたいのであれば、リーダー自らが触媒を担って「心理的安全性」のあるコミュケーション基盤をつくり、相互協力・支援の風土づくりに励むことです。
加えて、社員への会議での発言ができる知識・スキル教育訓練も継続して行っていく必要があることも忘れてはなりません。

専門家紹介


千葉 峰広さん画像

株式会社 アンカーJ

代表取締役

千葉 峰広

専門分野

□ 人事・評価・賃金制度の設計と運用

□ 退職金制度(確定給付・確定拠出企業年金・中退共運営)

□ 規定制定・改定(就業規則、転勤・役員規・祝無分掌規程等)

□ 各種監査対応(SOX、ISMS、OHSAS、EICC、税務調査、労基臨検)

自己紹介

成蹊大学法学部を卒業後、大手外資電子部品メーカー日本モレックス株式会社(資本金 120 億円 従業員約 2,000 名)で約 27 年間人事部勤務。人事労務を中心に賃金制度、人事評価制度、退職金制度(確定給付年金)等の企画・施行に携わり、大手電子部品企業の人事部とも広く深い人脈がある。
2015年これまでの知識・経験を活かして、地域の人と企業が元気になれる事業を志して起業。1960年生まれ 藤沢市在住

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